終わりなき挑戦は 続く
春は出会いと別れの季節。一般的には3月末から4月にかけてがその時期にあたるが、中央競馬の世界では少し早く、3月から新年度がスタート。2月の終わりが別れの時期になる。今年は東西共に定年を迎えた調教師が多く12名の方々が現役を退かれた。我々のような勤め人ならともかく、経営者と言っていい調教師に定年という言葉は似つかわしくないが、それもルール。70歳まで続ければひと区切りと言えるのもかもしれない。ただ、中にはその年齢まで行かずに志半ばで勇退という道を選ばれた方もいる。個人的に懇意にさせて貰ったことはないが、私の記者生活の中でもおそらく忘れることのない活躍馬を育てた二ノ宮調教師がその中に含まれていた。日本調教馬がまだ成し遂げてない凱旋門賞制覇の夢。そこに一番早く近づいたのが師の管理馬だったエルコンドルパサーであり、後年にはナカヤマフェスタでも2着の実績がある。決して饒舌というタイプではなかったが、トレセンで見かける姿はいつもエネルギッシュで行動力に溢れていた。今後はその姿も見られないと思うと少し淋しい気もする。 今週は再び、寒の戻りがありそうだが、3月1日の春一番を境に関東は冬の空気から春の空気に入れ替わり、季節の変わり目を感じさせた。あたかもそれに合わせるようなタイミングで週末の競馬ではチューリップ賞、弥生賞というクラシックに向けて重要なトライアルが開催されて牝、牡共に昨年の2歳チャンピオンが無傷のまま勝ち名乗りをあげた。阪神JFからチューリップ賞という流れは同じ舞台でもあり、連勝する馬も多いが、朝日杯FSから弥生賞という牡馬路線は、距離の違いにコースの違いもあってなかなかハードルが高く、以前の中山施行時も含めてここ10年では皆無。それだけにダノンプレミアムが期待通りに勝ち上がった意味は大きいと思う。開業してこの3月で5年目の中内田調教師にとってはここから続くであろう長いキャリアの中での輝かしいスタートになったのではないか。どちらかというと末脚特化型のタイプが多いディープインパクト産駒にあって正攻法の王道の競馬ができるのは近年の中距離路線では大きな強み。皐月賞、ダービーという春のクラシックもそうだが、更に大きなステージでも前途は明るい。 昨年の有馬記念で引退したキタサンブラックもそうだが、去る馬や去る人がいる一方でまた新しいヒーローも誕生する。先週、勝ったラッキーライラックやダノンプレミアムが今後、どんな活躍をするかは分からないが、チャンスがあれば国内だけに留まらず海外のビッグレースにもチャレンジしてほしいと思う。過去の日本のホースマン達がトライして実現していない夢は一杯あるのだから。今年、デビューした騎手や調教師は直接の関わりがなくても先輩達の意志を引き継いで行く責任があるのではないか。自分も微力ながら何らかの形で後押しできればと思っている。2月末に閉幕した平昌オリンピックでは日本代表の活躍が目立った。普段はウインタースポーツにあまり関心がない私も開催時だけでも俄か応援団になって羽生選手の怪我からの復活Vなどには励まされたものだ。競馬関係者だけでなくより多くの人達と共に感動を味わう日を夢見ながら終わりなき挑戦は続く。
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