ある格言
来週の高松宮記念で、いよいよ春のGTシリーズの火蓋が切って落とされます。今年から新たに大阪杯が加わり、果たしてどんな戦いが繰り広げられるのでしょうか。
ところで、その春のGTシリーズの開幕に先立って先月行われたのが、ダート王決定戦のフェブラリーS。まだ記憶に新しいところですが、レース前日に急逝したゴールドアリュールの仔ゴールドドリームが見事に優勝。2017年のGT第一弾は、父仔の血のつながりというものを強く感じさせる結果で幕を閉じました。
「死んだ種牡馬の仔は走る」とは古くから伝わるこの世界の格言であり、その実例と呼べるものも少なくありません。ただ、父が死亡した翌日のGT制覇となると、私の記憶の中では例のないできごと。あくまでも私の記憶の中で、ですが。 この種の記録でまず思いついたのがグランプリボスによる2011年のNHKマイルC制覇で、これは同馬の父サクラバクシンオーの死亡から8日後のことでした。もうひとつ、外国産馬リンドシェーバーによる1990年の朝日杯3歳S制覇も思い出しましたが、改めて調べてみたところ、こちらは父アリダーの死から約3週の間隔がありました。あの朝日杯はアリダー死亡の報が伝えられた直後、そんな印象が強かったのですが、やはり、私の古ぼけた頭の中では、過去の記憶はどんどん曖昧になっていくようです(笑)。
それだけに、本来ならここで取り上げるべき記録をコロッと忘れていたり、あるいは、もともと認識がなかったりという事例があるかもしれませんが、思いついたり、調べがついたものを挙げてみると……。 まず、近いところではストレイトガールによる昨年のヴィクトリアマイル制覇で、これは父フジキセキの死亡から約4カ月後。また、ゴールドシップによる一昨年の春の天皇賞制覇は父ステイゴールドの死亡から約3カ月後。ちょっと遡って、ビリーヴによる2002年のスプリンターズSが父サンデーサイレンス死亡の約40日後。もう少し遡り、シンボリルドルフによる1985年のジャパンC制覇が父パーソロンの死亡から約50日後。 ざっと、こんなところです。
さて、いまビリーヴの名が挙がりましたが、その父サンデーサイレンスは冒頭の格言を更に強く印象づける成績を残しています。 勿論、存命中から数々の大記録を打ち立てた種牡馬サンデーサイレンスですが、死亡翌年の2003年には、ゴールドアリュール(フェブラリーS)、ビリーヴ(高松宮記念)、スティルインラブ(桜花賞、オークス、秋華賞)、ネオユニヴァース(皐月賞、日本ダービー)、デュランダル(スプリンターズS、マイルCS)、アドマイヤグルーヴ(エリザベス女王杯)と、実にGTに年間10勝をマーク。 これは自身のキャリアハイとなるばかりでなく、2014年のディープインパクトと並んで、JRA平地GTの年間最多勝記録です。また、それまで未踏のカテゴリーだった芝スプリント部門を死亡直後に制したことも、格言の実証≠強く印象づけるものだったと言えるでしょう。
勿論、「死んだ種牡馬の仔は走る」というのは、実際のところ何となくそう感じる……≠ニいうだけなのかもしれません。存命中の種牡馬の産駒よりも、死亡した種牡馬の産駒の方が本当に走るのか……。正確なデータを元にその確率を検証すれば、おそらくそう感じるだけ≠ニいう結論になるのでしょう。 ただ、それでも古くから伝わる格言には、科学や人知が及ばぬ何か≠ェある……。何となく、そう考えてみたくもなるものです。
美浦編集局 宇土秀顕
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