全馬重賞ウイナー≠フ実態は……
いよいよ来週は注目のスプリンターズS。快足が集う究極のスピード勝負で秋のG1シリーズの火蓋が切って落とされます。 ところで秋のG1といえば、昨秋の天皇賞を巡るマスコミ報道の中で少々引っ掛かる表現が散見されたことを思い出します。それは、同レースの出走馬に対する「全馬重賞ウイナーの好メンバー」という評価。 「出走全馬が重賞ウイナーという事実がそこまで評価に値するものだろうか……」というのが、それらの報道に触れた時の率直な感想。そこで、2000年以降の秋の天皇賞で重賞未勝利馬の出走がどれだけあったのかを調べてみたところ、結果は以下の通りでした。
2000年代の初めにはそれなりの出走があった重賞未勝利馬ですが、その後は確実に減少。最近10年に限定すると、半数の5回が「全馬重賞ウイナー」というメンバーになっています。また、重賞未勝利馬の出走があった年にしても、そのほとんどが1〜2頭の出走というのが実情。これを踏まえると、出走全馬が重賞ウイナーという事実を以って「好メンバー」だとか、「錚々たる顔ぶれ」と評価を下すことには、やはり違和感を覚えてしまいます。 歴戦の古豪による頂上決戦なのだから、出走馬すべてが重賞ウイナーであってもおかしくはないし、また、18頭も揃えば1頭くらいは重賞未勝利馬がいてもおかしくない……。現実はそんなところだと思います。
勿論、レースのレベルを評価するうえで、その尺度となるものは様々です。なにもかも数字だけで判断できるのかと言えば、それは否。一番大切なことは、出走メンバーを実際に見渡して、各々がどう感じるかだと思います。昨年にしても、前哨戦の勝ち馬3頭が顔を揃え、そのうち2頭は飛ぶ鳥を落とす勢いにあったラブリーデイとエイシンヒカリでした。その意味では大いに盛り上がった天皇賞だったことに違いはありません。 ただ、「好メンバー」の根拠を「全馬が重賞ウイナー」という事実から引き出すロジックが妥当か否かとなると、それはまた別の話。客観的な数字を持ち出して何かを伝えようとするのなら、その結論にも主観は排除されて然るべきでしょう。
ちなみに、昨秋の天皇賞は「全馬が重賞ウイナー」である一方で、「G1に2勝以上していた馬が皆無」というメンバーでもありました。これについても2000年以降を調べてみると、同様のケースは2012年のたった1度だけでした。確かにすべての出走馬が重賞ウイナーでしたが、G1を複数勝っているような傑出馬は不在。昨秋の天皇賞はそんなメンバーでもあったのです。
美浦編集局 宇土秀顕
copyright (C) Intergrow Inc./ケイバブック1997-2016