はかない夏
今年も好ゲームが多い夏の甲子園。
14日の日曜日第三試合、東邦の大逆転サヨナラを見られなかったのは残念でした。テレビ観戦できたのはここまで数試合だけですが、それでも野球の醍醐味が満載。オリンピックの裏開催とは言わさないだけの、熱戦が繰り広げられています。
その高校野球。以前は春も夏も一緒なのかなというくらいの感覚しかなかった。どちらにしても優勝した学校は全国制覇。それほど価値は変わらないのではないか。しかし、この春、初めてセンバツを甲子園で観戦した時に印象がガラッと変わってしまった。確かに同じ全国の高校野球大会ではあるけれども、夏とは別の位置づけにあるのかもしれない……。
観戦したのは3月28日の月曜日。この日は滋賀学園と奈良の智弁学園の対戦が第一試合。第二試合には地元兵庫の明石商と京都の龍谷大平安と近畿勢同士の好カードがふたつも組まれていた。当然のように内野の有料席はすべて完売。無料の外野も8割以上は埋まっていて、ほぼ満員御礼。何とかアルプススタンドの端っこに席を見つけて座ることはできましたが、周りもビッシリとお客さんがいて、久々に甲子園に来たのだと思わされる雰囲気でした。
しかし、人がたくさんいて、お祭りのような雰囲気は夏と一緒でも、当然のことながら暑さが違う。この日の兵庫県西宮市の最高気温が14.4度。陽が射すと暑くは感じても、体感温度でせいぜい20度くらいだったのではないでしょうか。以前、夏の大会を外野で見たときは、1時間に一度は勝ち割り氷を三つも四つも買い求め、頭と首筋に当てているとあっという間に溶けてしまった。気温は35度前後だったかもしれないけれど、暴力的な陽射しを受けた体感温度は楽にこの日の倍、40度以上になっていたような気がします。とにかく、うんざりするような暑さで、途中からは口も利けなくなったことを思い出しました。
球児が目一杯のプレーをするのは確かに春も夏も変わらない。実際、目当ての地元千葉県の木更津総合の試合は1点を争う好ゲーム。最後の最後、9回裏に秀岳館に2点を取られて逆転サヨナラ負けになる劇的な結末だった。そんな劇的な試合だったのにもかかわらず、何かグッと胸が締め付けられるようなものがない。
これが夏で言えば、甲子園大会だけではなく、地方予選の1、2回戦でも十分に胸にぐっと来るものがある。たとえ、それほど強くない高校同士の対決で、自分とはまったく無関係の学校同士の対決でも、試合が終わって選手や応援団がこらえきれずに泣いている姿などを見ると、ついついもらい泣きしてしまうようなことがよくあります。
センバツはセンバツで十分に面白い。初めて全国区に名乗りを上げる選手を見るのは何よりもの楽しみで、あの新鮮な印象は春のセンバツならではという気がします。それでも夏は3年生にとって最後の大会。自然と重みが違ってくるのでしょう。そして、あの陽射しと暑さ。これは選手は勿論、見ている側にも切羽詰まった気持ちにならざるえない。自然と球場全体の雰囲気が変わってくるのではないでしょうか。
果たして夏競馬。ようやくなのか、もうなのか、ともかく残り3週になりました。
売り上げや、レースの質から関西圏、関東圏で行われる競馬が一番。という意見も分かる一方、あの陽射しと暑さの中で行われる福島、新潟競馬は、いかにも夏の甲子園のような、そのとき限りといった趣があっていい。
夏に“はかなさ”を感じてしまうのは高校生だけの特権ではない。オジサンにだってそんな瞬間があってもいい。それがもしも競馬で体感できるのだとしたら、それは本当に喜ばしいことなのでしょう。
先週の新潟では、散々、馬券を取られて、お盆ラッシュの混乱の中でぼろぼろになりながら帰宅。その翌日、部屋でボーっと高校野球を眺めながら、こんなことを考えて自分を慰めていました。
美浦編集局 吉田幹太
copyright (C) Intergrow Inc./ケイバブック1997-2016