『世の中に絶えて競馬のなかりせば』
世界から猫が消えたなら。特に猫が好きな訳ではなく、映画が好きな訳でもないが、ふと思い立って観たストーリー。興味がない方や未見の方もいると思うのでここで詳しくは説明しないが、柄にもなく泣いてしまった。機会があれば是非、見ていただいて損はないと思う。もし、世界から競馬が消えたなら……。在原業平風に言えばレース結果を気にすることもなく週末の時間がのどかに過ぎて行くのだろうし、あの東京競馬場の大スタンドもただの広い公園にでもなっているのかもしれない。あまり想像はできないが、私も別の何かの仕事をしていることになるのだろう。予想が外れて悩むこともないし、当たったと言って喜ぶこともない。ギャンブル依存症の人が減って、公金を流用なんて事件もなくなるのかもしれない。そういう世界もありなのかも。
6月4日東京8Rで8番人気の小桧山厩舎所属、ワトソンクリックが快勝。厩舎担当の赤塚TMが敢然と◎を打ち、馬券もゲット。近走の成績が悪く、人気を落としていたが、昨年のこの時期には初の古馬相手で2着に健闘していたし、この結果も何ら不思議ではない。ただ今回は、降級したパッショネイトランや勢いのある3歳馬モルゲンロートがいた中でどうしても隠れた存在になっていた。「実績通り、この条件は合っているんですが、ここ2戦は後方で流れに乗れないレースが続いて不本意な結果に終わっていたんです。でも、これが実力ではないと思っていたから厩舎スタッフと相談して新味を出すためにT.ベリー騎手に騎乗を依頼。今回は攻め馬を強化をしたし、ベリー騎手には意識的に積極的な競馬をして貰ったんです。もともと終いはしっかりしているので流れに乗れればという思いはありましたからね。すべてがうまくいきました」と納得のいくコメント。この仕事をしていれば分かることだが、厩舎サイドも取材する方も常に何らかの工夫をしていてもそれが結果に結びつくことは万にひとつと言ってもいいくらい。東京競馬場のスタンドではいつも隣席にいる赤塚TMの日頃からの姿勢が関係者の信頼を得て今回のような勝利をもたらしたと言っても過言ではない。天晴れ。
一方、私は土曜の本紙担当レースをすべて外し、日曜の1Rでは◎→△でようやく的中かと思わせて赤塚TMの推奨馬がハナ差で2着に残って不的中。続く、2、3Rは人気サイドの決着で何とか的中したが、問題は次の4R。某番組で推奨馬として取り上げたアスコットチャンプを◎としたが、混戦模様で何が勝ってもおかしくない。予想外の雨の影響もあって馬場が渋り、不確定要素も大きかったが、大野騎手の落ち着き払った騎乗にも助けられ直線で外に出すと力強く抜け出して押し切った。隣席から幸運のお裾分けをして貰った気分。ただのギャンブルと言ってしまえばそうかもしれないが、あまり注目されることのない未勝利戦でも各馬にドラマがあり、オーナー、厩舎サイド、騎手、それに取材する我々の様々な思いが込められている。土日の新聞だけではなかなか伝え切れないが、どこかでより深くそれを伝えられたら……。こんな幸せなことはないのかも。そう言えば最初は何を考えていたんだっけ?今週も何か面白いことを見つけようっと。
美浦編集局 吉田幹太
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