『風が違った』
16年ぶりの女性騎手デビューで、サークル外からも熱い視線が注がれたこの春の中央競馬。振り返ればJRAで初めて女性騎手が誕生した1996年でも、ここまでの騒ぎではなかったような……。 とにかく、大きな注目の中でデビューした競馬学校第32期生の6名。しかし、例年以上にプレッシャーがあったためか、6名ともなかなか初勝利を挙げられず、同期生で最初の勝ち名乗りを挙げたのはデビューから4週目、3月27日中山1Rの木幡巧也騎手でした。 今年の初勝利第一号は遅かった……。そんな話をしていると、「もし3月が終わって全員未勝利なら、競馬学校始まって以来のワースト記録だったらしいですよ」と後輩が教えてくれました。なるほど……。 それを聞いて興味が湧いたのは、各世代の最初の勝ち名乗りは、誰がいつ挙げたのかということ。ちなみに、競馬学校の第1期生がデビューしたのは1985年。以降32年間の記録を調べると以下の通りでした。
後輩の言葉を疑ったわけではありませんが、自分で調べてみても確かにその通り。前述の不名誉な記録こそ辛うじて逃れたとはいえ、世代最初の勝ち名乗りが3月27日というのは、これまでで最も遅い記録。開催単位で言えばデビュー4週目での勝利でしたが、それまでは3週目での勝ち上がりが2例あるだけ。あとはすべて、デビューから2週以内に誰かが勝ち上がっており、初騎乗初勝利の快挙を飾った騎手も10名を数えます。 ただ、その木幡巧也騎手は先週までに11勝を積み上げており、今や年間40勝ペース。85年以降の新人最多勝の平均が33勝ですから、まさに不名誉な記録を吹き飛ばす活躍ぶりといっていいでしょう。
ところで最初の一人≠ェいれば、最後の一人≠ェいるのも当然の理。一人、また一人と先を越されていく焦燥感はどれ程のものか……。厳しい勝負の世界とか、競争社会というものとは無縁な生き方をしてきた自分には察するに余りあるところです。 その心境はさておき、各世代の最後の一人≠ェいつ初勝利を挙げたのか、これも調べてみました。残念ながら未勝利のまま引退した騎手が3名いますが、その3名は対象外としています。
当然のことながら、最初の一人∴ネ上に、最後の一人≠フ初勝利の時期には大きな差があります。年を跨いだ騎手も8名いて、うち1名は実にデビュー翌々年5月の初勝利でした。 敢えて名前を挙げさせてもらうと、現役騎手では田中勝春騎手や丸山元気騎手が最後の一人=Bまた、故後藤浩輝騎手も、実はこの最後の一人≠ナした。 初勝利というものが生涯記憶に残る大きな大きな1勝であることは間違いないでしょう。しかし、その一方で、他人より多少後れを取ったとしても、特に気にかける必要などない、そんなものでもあるようです。大きくもあり、また、さほど大きくもなし……。おそらく、それが初勝利というものなのかもしれません。
さて、32期生で最後の一人≠ノなっていた菊沢一樹騎手でしたが、5月7日の東京競馬1Rで、「風が違った」の言葉とともに待望の初勝利。最後の一人≠セったからこそ、胸に響くような言葉が自然と出たのだろう、個人的にはそう思っています。 他の同期生が全員勝ち上がり、おそらく焦りもあったことでしょう。しかし、過去の記録を振り返ると、5月7日というのはむしろ早い方。最後の一人≠ゥら大きく盛り返した前出の先輩たちを目標に、これからも勝者にしか分からぬ風≠たくさん感じてほしいものです。
美浦編集局 宇土秀顕
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