『胸を張りたいこと』
地上波テレビ各局、4月は番組改編で賑やかです。まあ、これ自体は例年のことではありますが、今年はNHKの動きがなかなかに派手だったように感じられました。 人気番組のキャスター、アシスタントの変更でイメージ刷新が計られたり、放送時間そのものの移動もあって、録画予約の修正作業がまだ追いついていません。あ、これは個人的なことですが。
各局、看板番組があって、優れたコンテンツであればあるほど、それを延々と何年も続けたくなるのは無理もない気はしますが、一歩間違うとマンネリ化を招きます。 その点で言うと、NHKは看板番組の作り方が抜きん出て丁寧なように感じます。それは資金力が違うから≠フひと言で済まされかねないことで、無論それはそうかもしれませんけど、でも、常に次の新しい何か≠求めるような挑戦的な印象を受けます。 それも結局のところ、資金力が可能にしていること、なんでしょうか?或いはお堅いイメージの放送局だけに、ちょっとした動きが冒険的に見えてしまうからでしょうか?
そういう流れのひとつで、この春、『クローズアップ現代』がリニューアルされ、『クローズアップ現代+(プラス)』としてスタートしました。 前作『クローズアップ現代』が長寿の看板番組。本当ならマンネリの謗りを受けていておかしくなかったにもかかわらず、それほどの批判対象になってなかったのは、毎日届けられる生放送のドキュメンタリー形式、が大きかったからだと思います。 昨年、ある不祥事が起きて、そのせいなのかどうかは知る由もありませんが、ともかく今回、リニューアルされました。
その1回目の放送で取り上げられた話題が『野球賭博問題』でした。 (ということで本題に入らせていただきます)
昨秋、発覚したプロ野球の現役選手による野球賭博問題。この時にNPBコミッショナーから無期失格処分を受けた読売ジャイアンツの元投手の一人が、処分決定後、初めてテレビメディアに登場したのが、『クローズアップ現代+』のリニューアルスタート第1回放送です。
どういう経緯で野球賭博に手を染めていったのか、などについての単独インタビューが行われ、その質疑と同時に、地元に戻って清掃業などを営みながら自主トレーニングに励む姿、などが放送されました。
印象的だったのは、ゲスト出演していた作家の伊集院静さんのコメント。それらの映像が終わった後に、「同情する余地はありませんね」と言い切ったことでした。それだけ事の重大性を感じておられたのでしょう。 実のところ私もこの件に関しては、もっと本格的に、深刻に、重大事件として扱われてしかるべきことだと思っていました。 ですから、インタビュー映像を見ながら氏とまったく同じように感じていました。
ただし、私の捉え方は、厳密には氏と別の視点からだったかもしれません。 元投手のインタビューの中で気になった部分があったのです。正確ではないですが、概ね以下のようなやりとりでした。 Q−八百長に関わっていないか。 の問いに、 A−ありません。 (これはいいとして) A−そもそも自分は1軍にいなかったので、やろうとしてもできる立場になかった。 と続けたのです。
では、やれる立場にあったらどうだったのか…。
この事件の最大の問題点は、反社会組織が絡んだ賭博、それに伴う八百長問題。本質的な闇はそこに集約されています。 つまりその競技の存在理由や、プロスポーツそのものの在り方に関わること、だと捉えなくてはなりません。 しかし彼の発言は、その闇の部分の疑いを何ら晴らしていないし、立場によって行動が変わる可能性があるのなら、むしろ疑いを増長させることにもなりかねないものです。 事件の当事者が、時間を置いてから釈明のためにテレビに出演しながらなお、こういう発言が出てきてしまう…。 バドミントンの代表選手の件でも言えることなのですが、問題の本質的な部分は、こういったスポーツ選手が形作られる過程そのものにあるのかもしれません。
そして、そう先の元投手の発言が捨て置けなかった理由というのが、まさにこの部分だったわけです。 例えば競馬で八百長が疑われたとしましょうか。その時「競馬で八百長はできませんから」などとわかったように答えたら、同じように受け取られかねない、ということ。 「できるならやるのか?」 と。 一旦疑われたら、信用を取り戻すのには時間がかかります。 「万難を排して、八百長はありません」 でなくては、存亡の危機に陥りかねません。大袈裟でしょうか?
『クローズアップ現代+』を見て、伊集院静氏とは違う視点で、と書きましたが、ここまで書いてみると、実は根っこの心情的なところは同じだったかも、と思うようになってきました。 自分が愛する競技を愚弄されたかのように感じた≠ニいったような共通項で。
こんなこと書くと、競馬について「そんな大層なものか」とか、「そんなもんだろ」などと下卑たことを言う方々が出てくるかもしれません。 が、私は「違いますよ」と胸を張って思っていたいのです。悪しからず。
美浦編集局 和田章郎
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