『辛辣なジャッジ』
9月末に肋骨を骨折し、10月に入ってから2週ほど騎乗を見合わせていたが、復帰してから元気な姿を見せている田辺騎手。つい先日も2歳牝馬の重賞アルテミスSにおいて初騎乗のデンコウアンジュで12番人気の低評価を覆して見事、1着にエスコート。同じく2歳重賞の京王杯2歳Sではこれも初騎乗のアドマイヤモラールで6番人気ながら2着に食い込んだ。馬券圏内には至らなかったが、秋の天皇賞では誰もがハナを切ると疑わなかったエイシンヒカリを制してクラレントで先手を奪い見せ場十分の6着。過去の成績に囚われない大胆な騎乗ぶりで穴党を喜ばせている。
普段から接していても自然体で勝負師というイメージはないが、騎乗ぶりは冷静そのものでポジショニングや進路の取り方は的確。馬の特徴に合わせた繊細な気遣いを感じさせる。特にその傾向が顕著に表れるのが冒頭に挙げた2歳重賞に代表されるように2歳戦での好成績だ。過去3年における東京コースでの騎手リーディングでは全体で6位だが、2歳戦に限れば3位。中山では全体で2位ながら2歳戦に限れば堂々の1位に。キャリアが浅く特徴を掴みづらい中でこれだけ安定した結果を残しているのは確かな騎乗技術があるからだろう。
デビュー前の稽古の感触や初騎乗馬に対する印象を聞くとほとんどが「うーん、どうでしょう、大したことないです。普通ですよ」といつも辛口のジャッジしか返ってこないが、決して悲観的に捉えている訳ではなく、厳しい見通しの中でどこかに可能性を求めている姿勢があり、言葉通りに受け取るといつも馬券で痛い目にあっている。アルテミスSでも自身が乗って勝ったデンコウアンジュよりも負けたメジャーエンブレムに乗ってみたかったというのは本音だろう。もし実現していればどんなレース運びを見せたかは想像するだけで楽しい。GT勝ちは昨年のフェブラリーS、コパノリッキーでの16番人気での勝利だけ。クラシックにはまだ手が届いていないが、毎週のように新馬勝ちを果たしている現状を考えればいつでもチャンスはあるだろう。今後も2歳戦での騎乗ぶりに注目して行きたいし、私も彼の辛辣なジャッジに堪えるような仕事をしたい。
美浦編集局 田村明宏
copyright (C) Intergrow Inc./ケイバブック1997-2015