『放蕩息子の育て方』
9月27日中山競馬場で行われた芙蓉Sを良血馬プロディガルサンが勝ち上がった。芙蓉Sは以前は中山1600m施行だったが、今回から皐月賞と同じ舞台の2000mに。更に重要度が増した。今年の皐月賞2着で先日の神戸新聞杯でも2着になり菊花賞でも中心的存在になりそうなリアルスティールの全弟の同馬。ペーパーオーナーゲームでも注目度ナンバーワンと言っていい存在だけに今回は2番人気の評価に甘んじたのは意外だったが、終わってみれば素質が違う勝ちっぷりだった。
デビューは6月の東京戦、当時は単勝オッズが2倍を切る圧倒的人気。国枝厩舎の所属馬のシンボルと言っていいシャドーロールは着用せずメンコ着用で臨んだが、前半から行きっぷりがひと息。直線に向いて外に持ち出してもまだ反応が悪く、追い出すと内にモタれて手前も替えず何とかフジマサスペシャルを交わしたところがゴール。調教で見せていた抜群の動きとはまるで違うものだった。その後は一度も放牧に出ることもなく厩舎で調整を続けて札幌2歳Sの予定をパスしてここへ。相変わらず稽古の動きは文句なし、古馬が相手でも併せ馬には物足りないほど素晴らしい内容だった。ただ、初戦の案外な内容が記憶に新しいだけに取材する我々としてはどうしても気になるところ。その点を国枝師に確かめると「コース替わりとか距離延長とか相手関係を云々する馬ではない」とキッパリ。相変わらずの好馬体は目についたが、パドックではうるさい面を見せて正直なところ不安も抱かせた。いざレースでは距離が延びたこともあって初戦に比べて追走は楽。4角手前は鞍上が少し急かす場面もあったが、先に抜け出した2着馬を目標に坂を上がってからグイッとひと伸び。まだ全力で走り切ったとは言えないが、初戦に比べて大きな前進を感じる内容でゴールでの半馬身差以上に余裕があった。これで無事に賞金加算、来春に向けてまずは視界良好と言えるだろう。
今後についてまだ未定だろうが、放牧に出さずに調整されるのは間違いない。レース後にすぐに放牧、極端なケースでは競馬場からトレセンを経由せずに放牧に出される例もあると聞く、近年の流行とは一線を画すパターン。これは同厩舎、同オーナーだったアパパネと同じで信頼関係があってこそできることだが、馬房制限(効率を上げるため)や預託料(放牧中の方が安い)の都合で外厩に任せてしまう仕上げに比べて本気度が伝わってくる。ひとつずつステップアップをしているが、まだまだ幼さが残る我が子の成長を見守る親の気持ちのようなものだろうか。
馬名のプロディガルサンとは日本語でいえば放蕩息子のことで新約聖書ルカの福音書15章に登場する、放蕩息子のたとえ話に由来するものだという。ある父親に二人の息子がいて長男は父のもとで勤勉に働くが、弟の方は先に財産の分け前を貰って家出し放蕩の限りを尽くしてすべてを失った後に父の元に帰って来た。叱られるのを覚悟で帰った弟だが、父は祝宴を開いて暖かく息子を迎えた。キリスト教における神と人間の関係を表した話のようだが、きっと同馬もこれから様々な経験を積みながら大きく成長するに違いない。クラシックまでは時間はたっぷりある。私も陰ながらその過程を見守りたい。
美浦編集局 田村明宏
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