『無実の彼女』
2014年12月7日。快晴。冬の初めにしては穏やかで日差しが降り注ぐ日だった。中山6R、当日は中京で新設されたチャンピオンズカップが行われるという関係からいつもより落ち着いた雰囲気で淡々とレースが施行されていた。3番目にパドックに現れたピンクブーケは牝馬にしては堂々とした姿勢、というよりはどちらかというと気合不足にも映る姿だった。スタートは普通だったが、鞍上の吉田豊騎手は内枠を生かして慌てず、ジックリと後方から。新馬戦らしいスローペースで手応え自体は悪くなかったが、やや仕掛けが遅いのでは?と思わせるような位置取りで4コーナーに向かった。そこから外を回って徐々にポジションを上げて直線へ。それでもまだ、前とはかなり差がある。坂下から進出、先行していたフォギーボトム、更に並びかけようとするマイネルサージュの外から一気に差を詰め、坂を上がって手前を替えるとグイッとひと伸び。終わってみれば2番手に1馬身半の差をつけて見事、1位で入線していた。
稽古の動きは目立たず、初戦向きとは言えないメイショウサムソン産駒ながら派手な勝ちっぷり、少し気が早いがクラシックもと考えていた矢先にレース後の検体からカフェインが検出されたとの報せ、その時点で失格。更に厩舎サイドの関与が疑われ、警察の取り調べも行われることに。その後の顛末は少し省略するが、結論としては管理している小西厩舎には何の落ち度もなく認可された飼料に誤って薬物が混入していたのが原因ということになった。ちょうどその結果が判明するのに合わせて彼女の復帰戦も3月1日中山の牝馬限定の未勝利戦に決定。放牧先から帰厩し、乗り込みを開始していた。だが、何と言う悲運。2週前の2月11日の追い切りを終えた後に左トモの骨折が判明、ボルトを入れる手術が行われることになった。診断は9カ月とのこと。単純に計算すれば10月末か11月、もう未勝利戦は終わっているのだ。勿論、出走枠さえあれば500万クラスに出走は可能だが、既に勝っていて順調に使われている馬が相手。そこで結果を残すのがどれだけ大変かは想像に難くない。
ただ、これまで親身になって育ててきた小西厩舎の関係者も我々にもどうすることもできない。あとは彼女が無事に復帰して再び、力強い走りを披露してくれるのを待つしかないのだ。彼女に罪はない。未完成ながら素質の片鱗を見せていた彼女。その華麗な姿を忘れることなく復帰を待ちたい。
美浦編集局 田村明宏