『最後の奇跡、最後の驀進』
12年ぶりに新潟から始まった秋競馬。最大の目玉は、勿論、大トリを飾った“新潟のスプリンターズS”でしたが、話題の大きさという意味でこれに比肩したのが、ダービー2〜6着馬が顔を揃えたセントライト記念。その粒揃いのメンバーの中にあっても、ひときわ高い注目を集めたのがイスラボニータでした。レースも、そのイスラボニータが実力通りの走りで快勝。皐月賞に続く2度目の戴冠に向けて確かな一歩を踏み出しています。
ところで皐月賞馬イスラボニータといえば、春にも話題となったように種牡馬フジキセキの最後の世代。そのフジキセキは2006年と2008年の総合2位をはじめ、長年にわたって種牡馬成績の上位にランクされながら、それまでクラシックにはなかなか手が届かず、最終世代、つまりラストチャンスでの悲願達成となったわけです。
秋も深まりゆく時季に、なぜ春シーズンの話を取り上げたのか。その理由は、ここまでの2歳戦線を観てきて、改めて最終世代の活躍というものを意識させられたからに他なりません。今年の2歳が最終世代の種牡馬……。それがサクラバクシンオーです。現役時代にスプリンターズS2連覇を達成、種牡馬入りするとGTウィナーのショウナンカンプ、グランプリボスらを輩出し、2001〜2010年と10年連続で種牡馬成績のトップテンにランクイン。そんな稀代の快足が心不全でこの世を去ったのは、2011年種付シーズン途中の4月30日のことでした。そして、その翌年に生まれた忘れ形見が、今年の夏から2歳馬としてターフを駆けている訳です。
そのサクラバクシンオーの最終世代の戦いぶりを分析すると、特筆すべきは新馬戦における好走率の高さ。ちなみに、9月末現在の2歳新馬戦勝利数順の成績を振り返ると、以下の通りになります。
●2014年2歳新馬戦種牡馬成績
9月末の時点で6勝、2着3回、3着3回の成績を挙げ、勝利数順で3位タイにつけているサクラバクシンオーですが、何しろ、他の上位勢ほど出走数がないため、勝率は28.5%、連対率は42.8%、3着率では実に57.1%というハイアベレージ。出走数が10回を超える種牡馬の中では勝率と3着率で堂々のトップ、連対率ではディープインパクトに次ぐ2位という数字を残しています。
勿論、新馬戦の好走率と大物輩出の可能性はまた別の話。ですが、このサクラバクシンオーの最終世代には何か神がかり的なものすら感じてしまう、そんな数字であることは確か。ちなみに、この最終世代がいつになく優秀であるかは、同馬の年度別の新馬戦成績を見ても歴然。勝率でも連対率でも3着率でも、これまでの同馬のパーソナルベストを更新しようかという勢いにあります。
●サクラバクシンオーの年度別2歳新馬戦成績
ところで、歴史に名を残すような大種牡馬たちは、これまで最終世代でどんな活躍馬を送り出してきたのでしょうか? 独断で17頭の大種牡馬をピックアップしてみると……。
●大種牡馬の最終世代代表産駒
種牡馬の引退というのは、種付けシーズン途中でアクシデントに見舞われるケースや、高齢により種付け数を段階的に減らしながらフェードアウトしていくケースなど様々。ノーザンテーストのように最終世代が僅か1頭というケースもあり、単純に比較はできませんが、その成績が抜きん出ているのは、やはりサンデーサイレンス。最終世代からもグランプリホースのマツリダゴッホを筆頭に、フサイチパンドラ、アドマイヤキッス、アドマイヤメイン、アクシオン、トーセンシャナオー、マルカシェンクと、7頭もの重賞ウィナーを送り出しています。勿論、皐月賞馬イスラボニータを出したフジキセキも大したもの。そのフジキセキに続いて、サクラバクシンオーの最終世代からも父の名を更に高めるような大物が現れるのでしょうか……。
美浦編集局 宇土秀顕