『世が世なら……』
日本中央競馬会が設立されて60周年を迎える今年、各競馬場でひとつ、その競馬場の顔ともいうべき重賞が“JRA60周年記念競走”として施行されています。記念入場券や記念勝馬投票券の発売、馬連払い戻し金の上乗せなどとともに、この記念事業の一環として行われているのが、当該重賞の歴代優勝馬の中からファン投票で1頭を選出し、その馬の名を冠したレースを準メイン競走に設けるという企画(下記参照)。インパクトあり過ぎのネーミングだった皐月賞当日の『最強の荒武者 オルフェーヴルカップ』を皮切りに、すでに幾つかのレースが終了しています。
○60周年記念競走と当日10Rのレース名 皐月賞 『最強の荒武者 オルフェーブルカップ』 宝塚記念 『永遠の疾風 スズカサイレンスカップ』 七夕賞 『韋駄天 ツインターボカップ』 函館記念 『函館の名優 エリモハリアーカップ』 小倉記念 『玄界灘の風雲児 メイショウカイドウカップ』 札幌記念 『美しき女帝 エアグルーヴカップ』 新潟記念 『不屈の闘士 オフサイドトラップカップ』 菊花賞 『英雄 ディープインパクトカップ』 天皇賞秋 『豪快な淑女 ウオッカカップ』 チャンピオンズC 『白い衝撃 クロフネカップ』
ちなみに、先日の七夕賞の前に行われたのが『韋駄天 ツインターボカップ』。“韋駄天”の表現に、週刊競馬ブック誌上のTM推奨馬で美浦編集部の山下が大いに憤慨、いや、誌面上ではあくまでも遠慮がちに憤慨していましたが、まあ、ツインターボに“泥臭さ”があったかどうかはさておき、大逃げを打って最後まで後続を寄せつけなかったあの七夕賞。それだけ、見る側に強いインパクトを与えたということでしょう。一方、個人的に気になったのは、以前にこのコラムでも触れたビゼンセイリュウの投票順位。こちらはカミノハヤブサとジョセツに挟まれて、全46頭中の21位という、なんとも微妙な結果でした。七夕賞のあの内ラチ沿いの逃亡劇、インパクトの強さでは決してイダテンターボにも負けてないと思うのですが……。
ところで、来週行われる札幌記念当日にもメモリアルレースが組まれています。その名も『美しき女帝 エアグルーヴカップ』。現役時の輝かしい戦歴と母親としての繁殖成績、更には、過去に札幌記念連覇を達成した3頭のうちの1頭であることを考えれば、エアグルーヴがメモリアルに相応しい選出であったことは間違いないところでしょう。 さて、投票トップにエアグルーヴが輝いたのは妥当な結果として、2位以下にどんな馬が続いたのかが気になるところ。そこで、JRAから発表された全投票結果を別表に示してみました。 1965年に創設されて今年で第50回を迎えるこの札幌記念ですが、ご存知のように、かつてはダート重賞として施行されており(最初の4回は正確には砂コース)、芝の重賞にリニューアルされたのは、札幌競馬場に芝コースが新設された1990年。早いもので、今から四半世紀前のことになります。 投票結果を見てみると、15位までを占めているのが、その芝リニューアル後の優勝馬。まあ、これは普通に予測できるところでしょう。もともと、この手の投票は年代が新しいほど票が集まる傾きにあるうえ、札幌記念がダート戦だったのは、まだ、GTを頂点としたダート路線が確立される前であり、中央・地方の交流競走もほとんどなかった時代。この当時の札幌記念からも数々の“個性派”は誕生してはいますが、やはり、芝リニューアル後の優勝馬に比べると、印象度で見劣りするのは仕方がないのかもしれません。 それにしても、ダート戦当時の優勝馬のプロフィールを眺めると、この当時のダート重賞が、“砂の強豪”が集結する今のダート重賞と比べてかなり異質なものだったことが窺い知れます。当時のレース体系からすればそれも自明の理といえそうですが、芝とダートの線引きが曖昧な、そんな混沌とした時代が長く続いていたのだなあ、と改めて思い知らされた次第。ダート戦当時の優勝馬の中には、世が世なら、揺るぎなきダート王として君臨した馬もいることでしょう。同じような資質や能力を持っていても、生きる時代や周りの環境によって、その馬の評価は大きく違ってくるもの。これは人間にもあてはまることかもしれません。
最後に、芝リニューアル後の優勝馬が名を連ねる投票上位勢ですが、こちらには少々予想外の現象が……。それは、牝馬に極端に票が集中しているということ。何しろ、エアグルーヴ、ホクトベガ、ファインモーション、ヘヴンリーロマンスとベスト4までを牝馬が独占。全体の35%近い表を集めたエアグルーヴを筆頭に、この4頭の牝馬に18,341票のうちの実に10,172票が集中しています。アドマイヤムーン、アーネストリー、セイウンスカイ、メジロパーマーらの牡馬勢も戦績では決してヒケをとらないのになぜでしょう? とりあえず男馬はImmemorialということですか……。
美浦編集局 宇土秀顕