『どこまで輝く?一番星』
一番星……。宵の明星とも呼ばれるその星は、言うまでもなく、暮れゆく空に最初に姿を見せる星のこと。夕焼けの茜色がまだ仄かに残る西の空、その西の空に最初に輝き出す金星が一般的には一番星と呼ばれています。 ところでその一番星ですが、真っ先に輝き出すということから、しばしば、最も早く頭角を現した者の代名詞として用いられています。この中央競馬に例をとると、それは、今週行われる函館2歳Sの覇者に贈られる称号。世代で一番最初に重賞の勝ち名乗りを挙げる馬こそが、まさに「一番星」というわけです。
▼97年以降に誕生した17頭の「一番星」 函館2歳Sは今年で第46回を数える伝統の重賞競走。ただ、このレースが2歳馬にとって最初の重賞になったのは1997年の第29回から。それまで、札幌→函館の順で行われていた北海道シリーズが、この年から函館→札幌に入れ替わったため。つまり、歴代の「一番星」は、この1997年以降の優勝馬17頭ということになります。 ちなみに牝馬優勢のイメージが強いこの函館2歳Sですが、これら17頭の優勝馬を性別に見てみると、牡馬が8頭、牝馬が9頭とほぼ互角。ただ、最近10年では牡馬3頭、牝馬7頭ですから、近年はやはり牝馬が優位に立っていることは間違いありません。また、17頭の優勝馬の中で、初戦を落としていたのはサダムブルースカイとアタゴタイショウだけ。デビュー勝ちというのが「一番星」への大きな条件になっているようです。更に、地方馬を除けば他場で勝ち上がってきた馬の優勝というのもありません。果たして今年も、これらの傾向が踏襲されるのか……。 ところで、これら17頭の「一番星」はその後にどこまで輝いたのか……。これも大いに気になるところ。そこで17頭のその後を振り返ってみると……。
<函館2歳S優勝馬のその後(1997年以降)>
上記の通り、まず翌年のクラシックまで駒を進めた馬は過半数の10頭という結果になります。ちなみに、牝馬の優勝馬9頭が全てクラシックに出走したのに対し、牡馬でクラシックの舞台を踏んだ馬はフィフスペトル1頭だけ。距離その他の理由から、ある程度予測はできましたが、ここまで極端な結果が出たのは想定外。この函館2歳Sからクラシックへの道が開けるかどうかは、牡馬が勝つか牝馬が勝つか、まさにそれ次第と言えるでしょう。ただ、クラシックに駒を進めた9頭の牝馬の中で、そのクラシックで最良の成績を残したのはハートオブクィーンの桜花賞4着。これ以外のほとんどの馬はクラシックでは二桁着順に終わっているだけに、翌年の春まで一番星の輝きを保てたかと問われると、その答えは微妙なところになってきます。 続いて、函館2歳S以降に勝ち星を挙げた馬はどのくいらいいるのか? 数えてみると、こちらは、地方移籍後に勝利を挙げたリザーブユアハートを含めても半数割れの8頭どまり。それら8頭の内訳は牡馬が6頭、牝馬が2頭ですから、ここでは牡馬が明らかに優位に立っています。とはいえ、函館2歳S後にオープン勝ちがあった馬は4頭に過ぎず、重賞勝ちがあった馬となると僅かに2頭。ここでもやはり、内容面で物足りないというのが正直なところではないでしょうか。 そんな中、ターフを去るまで輝きを失わなかった「一番星」が、1997年にこのレースを制したアグネスワールドでした。骨折のために3才時のほとんどを棒に振ったアグネスワールドですが、丸1年のブランク期間の後に執念の復帰。その後、5歳まで走り続け、国内GTのタイトルには一歩届かなかったものの(スプリンターズSAA着、高松宮記念BD着)、4歳秋の仏遠征でGTのアベイドロンシャン賞に優勝、翌年の英遠征では同じくGTのジュライCに優勝を飾ってみせました。 奇しくも世代最初の重賞になった1997年の優勝馬が、その後の「一番星」を寄せつけない輝きを放ったことになりますが、それから17年。そろそろアグネスワールドに比肩する、いや、アグネスワールドも凌駕する「一番星」が現れてもいい頃ではないでしょうか。 もともとキャリアが浅い馬同士の一戦、しかも実力比較の難しい地方馬が加わるとあって、ちょっと手を出しづらいというイメージもあるこの函館2歳Sですが、まあ、あまりガツガツとせず、夕暮れの空に一番星を探すくらいの余裕を持って、今週土曜に一票を投じてみるのもいいでしょう。
美浦編集局 宇土秀顕