『世界のトップに立った!かもしれないジャスタウェイ』
今年のドバイワールドカップデー(3月29日)には日本から8頭が遠征した。これは2006年の9頭に次ぐ史上2位の頭数となる。その2006年はハーツクライがドバイシーマクラシックに、ユートピアがゴドルフィンマイルに勝ったので、頭数が多いほどチャンスが増えるとすると今回もそれに準じる成果が期待されたが、結果は皆さんご存知の通り予想を上回るものだった。簡単におさらいすると、ゴドルフィンマイル(G2、AW1600m)のブライトラインは5着、ドバイゴールドカップ(G2、芝3200m)、UAEダービー(G2、AW1900m)、アルクオズスプリント(G1、芝1000m)、ドバイゴールデンシャヒーン(G1、AW1200m)には日本馬の出走がなく、ドバイデューティフリー(G1、芝1800m)はジャスタウェイが1着、ロゴタイプが6着、トウケイヘイローが7着、ドバイシーマクラシック(G1、芝2410m)のジェンティルドンナは1着、デニムアンドルビーは10着だった。ドバイワールドカップ(G1、AW2000m)は残念ながらベルシャザールが11着、ホッコータルマエはしんがり16着に終わった。
ドバイシーマクラシックで狭いところに閉じ込められながら外に持ち出して鋭く伸びたジェンティルドンナの強さも印象的だったが、この日のハイライトはドバイデューティフリーのジャスタウェイだろう。4角手前までは後方3番手。そこから外に持ち出すと450mの直線の序盤であっという間に全馬を抜き去り、残り300mは独走となって2着のウェルキンゲトリクスに6馬身1/4の差をつけた。米トラカス社の計時によれば、ゴールでの着差は1秒06で、上がり3Fは34秒31。2番目に上がりの速かった2着馬の35秒58より1秒27速かった。2.27.25で決着したスローペースのドバイシーマクラシックのレースの上がりが36秒0。ジェンティルドンナの上がりが35秒58だから、一流馬でも35秒台で上がるのがやっとの馬場で、それを1秒以上上回るパフォーマンスを示したのだから、着差通りの圧倒的な内容と言える。ちなみに2着のウェルキンゲトリクスは南アフリカでデビュー戦、一般戦、G2、G1と4戦無敗。長い検疫を経て今年の2月にドバイで再デビュー(?)し、ハンデ戦と前走のジェベルハッタ(G1)も連勝していたので、これはこれでここを勝てば怪物と称されてもおかしくない存在だった。
2着がそれほど強い馬で、3着が昨年のブリーダーズCフィリー&メアターフ勝ち馬ダンク、4着のムシャウィッシュも今年ドバイ入りしてG2を2、1着と好調だった。これだけレベルの高いメンバーを相手にした6馬身1/4差の圧勝で見えてくるのは世界ランキング(ワールドベストレースホースランキング)のトップだ。現在の首位はアメリカのゲームオンデュード。3度目の勝利となったサンタアニタHで125がついた。以下、あくまでも筆者の個人的な計算とお断りしておくが、ジャスタウェイは少なくとも128、あるいは大台の130に至るかそれを超える可能性もある。エミレーツレーシングオーソリティのハンディキャッパーによる4月1日付けの暫定レーティングでは130となっていたので、おそらくワールドベストレースホースランキングでもそのあたりに落ち着くだろう。ジェンティルドンナは120前後、ドバイワールドカップのアフリカンストーリーは高くて127と見積もれるので、次回、4月10日に発表される予定のワールドベストレースホースランキングでは堂々1位の座にある可能性が高い。
レーティングというと少ししか勝たないテイエムオペラオー型の名馬の評価が辛くなったり、数字で強さを表現できるのかといった素朴な疑問を投げかけられることも多いし、ときには「あれ?」と首を傾げる数値を目にすることもなくはないが、少なくとも高いレーティングを得るためには、より強い相手を求めて戦わなければいけない。そして、より強い相手にできるだけ着差を広げて勝つ、あるいは逆に、負ける立場では少しでも前との着差を縮めるようにする。つまり、全力を出す努力がレーティングを高めることにつながる。1)強い相手を求めて、2)全力を発揮すること。この2点はより強い競走馬の探求という競馬の理想に添うものだ。その意味では、現在の世界ランキングで取られているレーティングの手法が競走馬の能力評価として今のところもっとも妥当なものであるとはいえるだろう。ワールドサラブレッドランキングからワールドベストレースホースランキングへと名を変えた世界ランキングでは、昨年のオルフェーヴルが129のレーティングを得て「牡馬に限ればトップ」に立ったことがある。これは1月8日のこの欄で触れたので、バックナンバーも参照いただきたいが、無条件で世界のトップに立てば年度の途中とはいえ史上初めてのこと。そういった面からもジャスタウェイの偉業を称えたい。
栗東編集局 水野隆弘