『大舞台への道のり』
先週土曜に行われた阪神スプリングJは関東馬で2012年のダイヤモンドSの勝ち馬であるケイアイドウソジンが3連勝で重賞制覇を遂げた。
競馬ブックWeb、Smartの障害コラム「ジャンプ競走応援団」でも触れたが、このレースの阪神3900mは関西ではタフな舞台設定で春の中山グランドJ、暮れの中山大障害との相関関係が深く、過去10年間ではテイエムドラゴン、スプリングゲント、トーワベガ、オープンガーデン、テイエムトッパズレ、バアゼルリバー、シゲルジュウヤク、マーベラスカイザーがそのどちらもで馬券圏内に入っている。ただ、今年は中山のJ・GTの出走経験があったのはテイエムブユウデン1頭しかおらず、一方で、障害転向後の連対を外していない素質溢れるニューフェイスが5頭も。更にはテイエムハリアー、オースミムーン、アドマイヤツバサの気持ちの入ったスピード自慢が顔を揃え、ちょっと様相が違っていた。たとえば、快足で鳴らしたコウエイトライは06年から08年に阪神ジャンプS(3140m)3連覇を達成し、10年にはグランドマーチス、バローネフォンテンを抜いて障害重賞最多勝(8)の新記録を打ちたてた障害界の名牝だが、阪神3900mは4度挑戦しながら2、2、2、14着と結局勝てず終い。重賞3勝を含むオープン8勝の実績を誇り、今回3番人気に押されたテイエムハリアーにしても4走して7、落馬、落馬、8着だから、同型アドマイヤツバサに絡まれる展開が応えたにせよ、本質的に適した条件ではないのだろう。3400mの平地重賞ウイナーであり、初障害の時からうまく息を入れてセンスを示していたケイアイドウソジンが、使われている強みと斤量差の利もあって、実績馬を捩じ伏せたのは頷ける結果だと思う(印を△にとどめたのは大失敗)。
日本の障害競走は世界水準で見ると異質なほどペースが速く、以前ジョッキーたちが「あんなスピードで飛んでるのは日本だけ」とその恐怖感を語り合っていたが、関東より関西の方がいっそうシビアな傾向があり、京都、小倉の重賞レベルとなると見るからに速い。その路線で最前線を走ってきた(いる)のがコウエイトライ、テイエムハリアーであり、追いかけてくる方がバテてしまうほどのスピードを武器に京都、小倉または阪神でも3140mの距離でキャリアを積み上げた。ただ、その代わり、いくらGタイトルを集めても、J・GTの舞台に上がる選択肢は取られなかった。なぜなら、速い=飛越が低いということであり、障害が大きくて起伏の大きい中山コースは向いていないからだ。中山の4000mを超える距離や、阪神の3900mの条件だと身上のスピードをセーブしつつ、障害をこなさねばならない。これでは最大限のパフォーマンスから少しずつ引き算されてしまう。ジャンプGTは中山だけだから、ビッグタイトルは諦め、あとはタイトルの数を上積みしていくしかない。
阪神スプリングJで2着に入線したオースミムーンは未勝利やオープンに上がった頃は後続を引き離して逃げるようなレースをしており、当初は明らかにコウエイトライ、テイエムハリアー型のスピード路線に属するタイプだった。気持ちの乗りが早くて、飛越が低く、父の産駒らしく俊敏性に長けた身のこなし。スタミナを内在していると思われるが、如何せんスピードが勝ち過ぎていた。調教と実戦で繰り返し馬の後ろで折り合いをつけて息の入れて走ることを叩き込まれて、昨年夏から秋に重賞3連勝。障害転向が3歳秋とあってまだ若く、馬の方も吸収力に優れていたのだろう。ひとつずつポジションを下げ、スタミナを温存することを覚えてステージアップしていった。3900mに臨んだ今回は序盤からスピードを抑え込んで、この馬としてはうんと後ろのポジションから。タスキの部分でジワリジワリと内へ入れながら上がっていき、タスキを出たところでは6番手。3〜4角中間の障害では3番手に上がり、直線入り口で先頭に立った。ケイアイドウソジンには差し返されて完敗だったが、秋以来、雪による競馬中止の誤算があったなかでの連確保。他より重い61Kを背負っていたことも考慮すれば、1番人気に応えられなかった形でも、大健闘というべきだ。おそらく次は中山グランドJ。最高峰のスタミナ勝負へのチャレンジだ。気力に満ちたこの馬があのタフなコースにどう挑むのか興味深い。
栗東編集局 山田理子