『世界の牡馬のトップに立ったオルフェーヴル』
何かとバタバタする正月競馬の慌ただしさに、昨年の有馬記念がもう遠い過去のように思えることもあるが、改めて映像を見返すとオルフェーヴルの強さはやはり衝撃的だ。ウインバリアシオンに8馬身差を付けた圧勝劇を受けてJRAから発表された暫定レーティングは129。これは2006年のディープインパクトの127を凌ぐもので、日本調教馬としてはエルコンドルパサーUSAの134(1999年凱旋門賞2着)に次ぎ、国内で得たレーティングとしては史上最高となる。過去の名馬との比較にレーティングを持ち出すのをあまりお奨めしない立場をとる筆者としては縦の比較はこれくらいにしておくが、2013年のワールドベストホースランキングではブラックキャヴィア、トレヴの130に次いでワイズダンと並ぶ3位タイ。上位2頭が牝馬なので牡・セン馬としては世界トップタイとなる。国際的には遠慮がちだった従来の日本馬のレーティングに比べると、最近はJPNランキングもかなり大胆な数値をつけるようになっているとはいえ、さすがにトレヴを超えてはまずいとの配慮が垣間見える数値となった。セックスアローワンスの4ポイントがあるので133までは実質的にトレヴを超えることにはならず、もうちょっと奮発できたようにも思えるが、国際ランキングはレーティングの数値そのままで並べられる。凱旋門賞馬トレヴを差し置いて1位となるレーティングも付けるのははばかられたのだろう。このあたりの公式ハンディキャッパーの苦しい心中はお察し申し上げる。そうはいっても、キングジョージ6世&クイーンエリザベスSのノヴェリスト(128)、ドバイワールドカップのアニマルキングダム(125)、ブリーダーズカップクラシックのムーチョマッチョマン(125)を超えたのだから堂々たる牡馬のチャンピオンだ。
たとえ凱旋門賞に勝たなくても、それに劣らないの評価を得られることは、今年もオーストラリアのスプリント女王ブラックキャヴィアが示している通り。宝塚記念やジャパンカップ、有馬記念の勝ち馬が凱旋門賞馬よりも高いレーティングを得ることはあり得るし、実際、2012年は凱旋門賞馬ソレミア122に対し、オルフェーヴルは127(宝塚記念の評価)だった。勝ち馬の評価に限れば、凱旋門賞より宝塚記念が上だったのですよ。その年のトップはイギリスから一歩も出なかったフランケルの140だったが、ダービーやキングジョージ、ブリーダーズカップといった誰でも知っている大レースはひとつも勝っていない。それでも2012年の最強馬という評価に対する異論は聞かない。いつどこで、どんな形で世界最強馬が現れても驚けないことになっているわけだ。もちろん、その土台として、凱旋門賞やブリーダーズカップ、ドバイの国際フェスティバルでの国際交流があるわけだし、あるいは世界を渡り歩いてレベル判断のキーとなる馬の存在も不可欠だ。伝統的な国際レースの存在価値がなくなったわけでもない。ただ、少なくとも「ここを勝てば世界チャンピオン」とあらかじめ決まっているような大レースはなくなったといってしまっていい。逆にいえば、世界のどこで行われるレースにも、強いメンバーが揃いさえすれば世界チャンピオン決定戦となるチャンスがあるわけだ。
オルフェーヴルは引退し、短距離で画期的な成果を挙げたロードカナロアも引退した。それでも、あとに続く名馬はきっと出てくる。近年の年度代表馬のリストを見れば「名馬の時代」が途切れず長く続いていることが分かるが、それが突然途切れることは考え辛い。今年もいいレースがたくさん見れますように。願わくば、日本の大観衆の目の前で世界チャンピオンが現れんことを。
栗東編集局 水野隆弘