『馬券と向き合う』
「馬券」とのつき合い方についてずっと長い間、自問自答している。親兄弟、親戚と血縁関係にばくち打ちがひとりもいない出自でギャンブルがDNAに組み込まれていないうえに、やれ玉子ひとパックが幾らだ、ねぎが幾らだとか、トイレットペーパーのこの値段は底値だとか、主婦的金銭感覚がすっかり体に染み込んでしまった今、正直に言えば、何万円のお金を週単位で勝ったり負けたりするのは精神的にしんどい時があるからだ。競馬と予想を生業にしている以上、マイナス収支になっては働いている意味がない。しかし、常勝は難しい。自分にセンスがないといえばそれまでだが、他の職業なら働いた結果、お金を取られるなんてことあり得ないのに……とこんな思考が頭をぐるぐる巡ってしまう。
他の人はどうなのか? 私の周辺人物の馬券との向き合い方を観察してみた。
【全レース参加型】厳密には100%ではないが、95%ぐらいの確率で時間や開催場を問わずに参加。WIN5も休まず購入。アンテナを張り巡らせ、彼らの戦いは週半ばの水曜の交流競走から始まる。彼らを見ているとイギリスの登山家ジョージ・マロリーによる名言「そこに山があるから」が頭に浮かぶ。「そこにレースがあるから」馬券を買うのだ。馬券の種類も実にバラエティー。意外に年間収支をキッチリ記録しているのもこのタイプ。
【投資型】配当が安くても堅いことが第一条件。1倍台のオッズにも手を出すことができる。大きなお金を自由に動かせる、ベテランの域に入った独身に多い。大金をつぎ込むため、馬を見る目はシビアで、追い切りは勿論、前日気配、当日の返し馬などを入念にチェックし、納得ずくで勝負に挑む。騎手や厩舎のバイオリズムや馬場状態、展開などの要素を客観かつ総括的に判断でき、勝負勘に長けているのも特徴。
【ロマン型】馬体や調教の動き、または血統背景などから素質を見初めて追いかける。状態が落ちたり、適条件に出走できなかったりで低迷が続いた時にも見放さず、長い目でじっくりと馬を見守り、買い時にタイミングを狙い済ます。常にその馬のことを想い、感情移入しているから凡走後でも自信を持って買うことができ、ズバリと読みが当たれば長打一発。雌伏の時が長かった分、当たった時の爽快感も人一倍。
【網張り型】頭にあるのは高配当、万馬券のみ。少頭数や本命戦と思われるレースには見向きもせず、3場36レースの中から波乱になりそうなところを選び抜き、多点張りで網を張って引っかかるのを待ち受ける。ローカルのフルゲートの芝1200mは必ず参加。小額投資でも獲物は大きく、3連複、3連単でうまくいけば20〜30万円はゲットできる。
【情報型】取材の成果を最大限に生かしてとにかく情報で買う。取材歴が長く、点ではなく、長〜い線でのつながり。お互い気心が知れ、情報提供者の性格を知り尽くしているから、話ぶりや語気で自身度を把握できる。いらない・危ない情報を持っているのも強み。
【バランス型】過去の対戦成績、走破タイム、追い切りの動き、血統、展開などを総合的に判断して最上位と思われる馬を買う。馬に対する思い入れはさほどない代わりに俯瞰して観る力があり、バランス感覚に優れている。総合的に最上位であれば人気しているケースが多く妙味は少ないが、的中率は高く、そこそこの配当をコツコツと積み重ねていく。
【データ型】過去のデータから消せるパターンに当てはまる馬を迷いなく切り、浮上するパターンは超人気薄であろうとピックアップ。オカルト的ともいえる馬券を小額で買う。自分の狙いは別にあり、遊び心のあるサブ的な購入法。嵌まった時は人知を超える大ヒットとなる。最近はデータ破りのディープインパクト産駒に悩まされている。
あの人この人と顔を思い浮べながら書いてみたが、リアルに表現できた気がする。全レース参加型は楽しそうだし、投資型への憧れもあるが、私は間違いなくロマン型。DNAにないであろうギャンブル感覚や、普段の生活にない金銭感覚で勝負したところで空振りに終わるに違いない。どれがいいとか悪いとかではない。いかに自分に合った戦い方を見つけるかだ。馬券の目標はこの業界に入る前から終始一貫「生涯プラス」。身の丈に合ったタネ銭でそれを達成するためにWIN5に託したい。末永くWIN5を買おうと思う。資金調達をロマン馬券で。小さな勝負を積み重ねる。それならバランスがうまくいく。
追記:WIN5は数字の羅列じゃないから、くじより当たると信じてます。
栗東編集局 山田理子