『東北へ行こう』
5月中旬に恒例のフリーハンデ会議で仙台へ。週刊競馬ブックで年明けと夏に連載される「合同フリーハンデ」のメンバーは山野浩一、黒田伊助、藤井正弘(サラブレッド血統センター)、私の4人。普段の情報交換や雑談はネット上の会議室ですましているが、1年に1回は実際に顔を合わせて大きな方向性や細かい取り決めを話し合う。今回は、昨年夏に黒田さんが福島県南相馬市に引っ越したので、そこから出てきやすい仙台で5月に行うことが早くから決まっていた。仙台で集合して松島泊、翌日は山元トレセン見学といった具体的なプランが煮詰まってきたところに襲ったのが東日本大震災だった。黒田さんは自宅で被災したものの何とか無事で、その後しばらく福島市内の避難所で過ごすことになる。当時連載の最中だった「競馬ブックアーカイヴ〜合同フリーハンデ19XX」も休止を余儀なくされた(もうじき再開しますのでお楽しみに)。
3月と5月とは地球的な時間からすればほんのわずかな一瞬の違いでしかないわけで、地理的に最も遠く直接的には何の被害も受けなかった私でさえこれは他人事ではない。その後、黒田さんが電気の復旧とともに自宅に戻り、東北新幹線が復旧して仙台も都市部は落ち着きを取り戻したようだったので、予定通りの日程で会議は行われることになった。昼前に集合して駅前のお店で牛タン定食を食べながら、みんなで黒田さんに地震と津波の様子を聞く。「座ってても倒れるくらいで、パソコンを押さえてたら頭の上に本が降ってきてさ」「雨が降るみたいに瓦がバラバラ落ちるの」「これ、2階から撮った写真」と携帯を見せてもらうと白い壁のようなものが写っている。これがこのあと玄関先まで来たわけですか。よくまあご無事でしたなあ。
とはいえ、通信環境の復旧のメドが立たず、レーティング作成に関わるファイルのやり取り、原稿やゲラの送受信ができない現状なので、一行は駅前の家電量販店に向かう。今回の会議の主要な目的が通信手段の確保だったのだ。結局、パソコンからスマートフォンにデータを移し、スマートフォンで送信するのが最も簡単確実な方法だったので、スマートフォンを入手する。ホント、仙台で最も長い時間を過ごしたのがヨドバシカメラだったような気がする。
夜は郊外の秋保(あきう)温泉泊。山村のあちこちに巨大な観光旅館が点在する結構な規模の温泉地で、周辺には日本三名瀑のひとつ秋保大滝や巨岩奇観の続く磊々峡など見どころも多いが、宿泊客は多くないようだった。前夜の仙台市内の繁華街の活気に比べると閑散としていて、当たり前だが、まだ地元はみんなにそんな余裕がない。また、遠方からの観光客も減っているということだろう。復興の中心となるべき仙台で、もともと元気なところまでこのように勢いを失っていくのは大きな問題。小社美浦編集部の吉田幹太あたりは、大きな馬券を当てて、帰省をかねて後輩を連れて仙台の温泉に行くべきだ。
実際のところ、関西からはともかく、関東から東北へは、週刊競馬ブック「一筆啓上」でおなじみの斎藤修さんがブログで触れていたように、今は期間限定のお得な切符があって行きやすいんですよ。まず、「やまびこ自由席片道切符」が6月13日まで使える。一応ボランティア向けではあるが、誰が使っても良く、盛岡〜仙台→東京までの区間が設定されている。盛岡→東京で6500円、仙台→東京で5000円だから、高速バス泣かせといっていい安さ。私は月曜日夕方のやまびこ自由席に乗って帰ってきたが、ガラガラだったので、大体どの時間帯でも席に不自由することはないと思われる(保証はできません)。もうひとつは「JR東日本パス」。こちらはJR東日本管内を新幹線を含め1日乗り放題で1万円。ただし、利用期間が決まっていて、第1回が年6月11日〜6月20日、第2回が7月9日〜7月18日となっている。5月14日に再開した盛岡競馬場は土・日・月に開催があり、この時期には岩手ダービー(6月13日)やマーキュリーCJpn3(7月18日)がいずれも月曜に行われる。指定席が2回までOKなので東京から往復指定席が使える。東京6時40分発のはやて115号で盛岡9時58分着。駅前を10時40分発の無料バスで1Rに悠々と間に合う。一日馬券を買いまくって、最終レース発走15分後の無料バスで駅前に戻り、焼肉と冷麺を食べて19時46分のはやて140号に乗れば東京に23時8分着。少々キツいが日帰り競馬ツアーも可能だ。これで1万円は安いですよ。関西からなら高速夜行バスと組み合わせれば2万円の弾丸ツアーも出来なくはないはずなので、若い人はぜひチャレンジして欲しい。おじさんはもう無理っぽいので諦めるけど。
栗東編集局 水野隆弘