『ファンの目線』
新聞、テレビ、ラジオ、一般週刊誌、そしてネットと、この1カ月、大相撲の八百長メール問題で騒がしいです。その中で一般週刊誌は、それこそ何十年も前から八百長を告発していたくらいだから、それみたことかという論調になって無理ないかな、と思うけど、その件に関してろくな検証をしてこなかったその他のメディアの騒ぎ方というのは、ちょっとばかり違和感を覚えざるを得ません。冷静に対処しないと、今回の件でもきちんとした検証を疎かにしてしまいかねない、そんなことを懸念してしまいます。
ブックログの方でも書きましたが、そもそも何をもって八百長と呼ぶか、ということなんじゃないでしょうか。“出来山”から転じて“出来レース”という言葉が定着したそうですが、今回はそれが日常的に行われていたのではないか、という疑惑があります。それも金銭のやりとりを介して。そのことは確かに憂慮すべきことなのですが、もしも、もしも現在、起きていることがそれだけだった場合、何が憂慮されるのかと言えば、相撲が面白くなくなってファンが離れかねない、ということに尽きます。問題のメールを突きつけられた数人の力士が出来レースを認めた以上、公益法人格の取り下げが云々されるのは仕方がありません。それはそうでしょう。もし出来レースが蔓延していたら、協会の運営が健全なのかどうか疑問符がついてしまいますから。 しかし、どうも方向性がズレていると感じるのは、勝負の中身の分析、検証に労力を費やしながら、でも何をもって八百長と呼ぶかという問題は棚上げして、ただただ「厳しく罰せよ」という論調ばかりだからでしょうか。
「ギャンブル産業では法律で厳しく取り締まっている。その比較からすると相撲協会は規定が緩いのではないか」
というようなことを国会議員が国会の場で発言したとかで、競馬法第31条を紹介したテレビ番組がありました。 今更ながら、我らが競馬を始め、競輪、競艇、オートには、一般のファンの、なけなしのお金が競技に投じられています。その勝敗について、結果を不正に仕組んだ一部の人間が利する行為、これこそがまさに“問題にすべき八百長”なのであって、厳しく罰するのは当たり前なんです。「3年以下の懲役又は300万円以下の罰金」と明記された罰則ですら緩い、と考えていいくらい。それと今回の相撲の出来レースを同じ土俵で語ることは、ちょっと違うのではないか、という感覚なのです。 真剣勝負が大前提。それはそうです。でも、そのことを正論めかして徹底的に追求していくと、7勝7敗の力士と4勝10敗の力士が千秋楽にあたった場合の“モチベーションの差”は「絶対に許されない心理状態」になりませんか。更にヒステリックに戦術的なことまで責め立てるなら、例えば高卒のルーキー相手に簡単に2ストライクと追い込んだ300勝投手が、「一球様子を見てやれ」とド真ん中に放ることも「絶対に許されない行為」になったりして?。そのボールをルーキーが場外に運んだ際に、ファンは「八百長だ!」とは叫ばない。それらの勝負を見ているファンには何の損得も生じないのですから 。
ファンの目線、ということで言えば、今回名前が挙がっている力士達の相撲を現場で見た後、言っちゃ悪いですが「このヘボ役者が」と何度罵ったかしれません。そういう“内容”についての吟味、チェックの過程も外せない楽しみのひとつ。だからこそ、そこにお金のやりとりがあったとなると、胡散臭い部分を含めて楽しんでいたファンこそガッカリ感は強いかも。やっぱり目に余れば、ファンは声を大にしてブーイングしなくてはならないのでしょう。協会が、内容についてチェックするというのは当然のこととして。 ファンの目線の重要性がこのあたりにありそうです。力士同士が金銭のやりとりで星を売り買いして相撲内容が著しく低下した場合、冒頭に書いたようにファンが離れる可能性があり、これはそれこそ「偽計業務妨害」みたいな話にもなりかねませんから、今後そういう禁止条項は協会のルールに明記されてしかるべきかも。でも、そのルールが適用される事態が生じる前に、ファンが厳しくチェックし、場合によっては面白くないものは面白くない、という意志表示が必要ではないかと 。
そういう意味で今回の一件、競馬法第31条を話題にしたからではなく、いろいろなことを考えさせられました。レースについて何かしらの意思表示をする際、しっかりとした目線、分析力を持っていないと、という点で、何だかそっくり当てはまりそうですもんね。何せ我々の、そして皆さんのお金がかかっていることなのですから。ファンの代表として記者席という“特等席”で競馬を見ている我々が、競馬の見方についての精度が低かったら、それこそファンの皆さんに対して申し訳が立ちません。 それにしても、その目を養うことがいかに難しいか。まだまだ精進の日々です。綺麗事を言っているつもりはまったくありません。繰り返しますが、自分のお金だってかかってるのです。
美浦編集局 和田章郎