『レーティングって何なのよ? という疑問にある程度お答えします』
毎年1月なかばに発表されるワールドサラブレッドランキングとその国内版JPNランキング。その年の競走馬がレーティング順にランク付けされているというのは分かるけれど、そもそもレーティングって何なのよという方は多いのではないだろうか。これまでは知らなくても特にどうもなかったと思うが、近年はレーティングによって賞金順を飛び越えて出走できるG1レースも増え、実際のレースへの影響も目に見える形で現れてきた。週刊競馬ブックでは「合同フリーハンデ2010ランキング」が連載されていることでもあり、ここで簡単に、実際にどうやってつくるのかを中心に説明してみたい。
こういうものは実例を見ながら進めたほうが分かりやすいので、昨年の有馬記念G1を例にとってみる。JRAのホームページから「データファイル」→「レーティング&ランキング」→「重賞競走等レーティング」と進むと2001年以降の全G1級レースのレースレーティング表が見られるので、そちらも参考にしていただきたいが、この表にはレーティングに必要な要素だけを抜き出してみた。
基本的にレーティングは、0.1秒または1/2馬身ごとに1ポイント、0.5キロごとに1ポイントの差をつけていく。57キロ同士で1馬身(0.2秒)の差がつけば2ポイントの差、57キロと55キロなら同着でも4ポイントの差がつく。実際にはレース内容によってハナ差でも1ポイント差をつけたり、逆にアタマ差でもポイント差なしだったりするケースも多い。有馬記念G1の時期のこの距離のレースでは3歳馬に2キロのアローワンスがあるので、レーティングの際はそれをならして55キロの3歳馬も57キロを背負っているものとして計算する。牝馬は牡馬に対して2キロのアローワンスがあるが、これはそのまま4ポイント引く。ブエナビスタはヴィクトワールピサからハナ差のぶんで1ポイント(牝馬減量2キロのぶんで4ポイント)が引かれる。さらにクビ差のトゥザグローリーは1ポイント引かれる(対ブエナビスタでは重量ぶんの4ポイントが戻される)。このように単純な計算で負担重量と着差によって表の右端のレーティング差が出てくる。こうやって求められた上から下までの差はハンディキャッパーごとのレース内容の評価によって着差や秒差の取り扱いにわずかな違いはあるにせよ、がっちりと固定されたもので、たとえば勝ち馬のレーティングだけを高くしようとか、5着でもこの馬は弱いはずだから低くしようといったことは不可能。伸び縮みしない縦糸にそのレースでの各馬の並び順が刻まれたと考えればいい。
そうやって並び順が決まってしまえば、極端にいうと1頭のレーティングが決まることで、あとは自動的に導かれる。実際には、1頭だけでは信頼度に乏しく妥当な数値にならない場合も多いので、同じように序列が刻まれた他のレースの縦糸をいくつも並べて検討していくことになる。
ここからはあくまで推測であるとお断りしておくが、有馬記念G1のレーティングをながめつつ、それを決めたであろう要素を挙げていくと、
1)ヴィクトワールピサはブエナビスタに先着はしたが、ジャパンCG1でのブエナビスタのパフォーマンス(121+4=125)を超えるものではなかろう 2)ブエナビスタは超えないにしても、ジャパンCG1時のローズキングダム(120)と自身(119)を超えるのは妥当なところ 3)ペルーサは天皇賞・秋G1(120)、ジャパンCG1(117)と、出遅れなどあるにせよ安定したパフォーマンスを見せている 4)この時点でトゥザグローリーは中日新聞杯G3勝ち(109)、トーセンジョーダンはアルゼンチン共和国杯G2勝ち(111)の実績しかないので、上げるにしても限度がある
……そういうふうにさまざまな条件を立てて考えていくと、ジグソーパズルのピースがはまるように、あるいはクロスワードパズルの答が出るように縦と横の並びが矛盾なく落ち着く妥当なレーティングが出てくる(うまく行った場合)。
こういったことを少なくともオープンクラスの競走すべてについて延々と繰り返してできあがるのがレーティングであり、それを上から並べて発表したのがランキングとなる。ひと口にいえば相手関係(出走馬のレベル)とそこで得た位置を数値で表したものであり、メンバーが強いほど、つけた着差が大きいほど、負担重量差が大きいほどその数値は大きくなる。昨年のワールドサラブレッドランキングはキングジョージ6世&クイーンエリザベスSG1で135のレーティングを得たハービンジャーGBがトップになったが、これは2着につけた11馬身が効いている。ハービンジャーGBはそれがG1初挑戦で、積み重ねた実績というのはなかったが、2着ケープブランコ以下も強い馬ばかりだったので、仮にそれらがすべて凡走だったとしても、135はつけなしゃあないやないかというパフォーマンスだったわけだ。逆にテイエムオペラオーのように少しだけ勝つ馬は何回勝ったからといってレーティングが上がるわけではなく、ファンタスティックライトUSAなどのより強い馬に勝つことでしか上がらない。あるいはまた、ファリダットUSAのように長く勝ちから遠ざかっていても、2009年の安田記念G1でウオッカとディープスカイに続く3着でカンパニーに先着していたりするとレーティングでは高い評価が与えられることになる。
レーティング115以上の馬が掲載される2010年のワールドランキングは調教国・地域別に見ると、アメリカ84.5頭、イギリス60.5(米英にまたがったのが1頭いるため)、オーストラリア43、フランス32、日本30、香港19、アイルランド17、UAE12、南アフリカ10、ドイツ8、イタリア5、ニュージーランド5、シンガポール2、チェコ1、サウジアラビア1という勢力図になった。個々のレーティングはヨーロッパやオーストラリアに比べるとアメリカと日本が抑えられていると感じるが、それでもランキング入りした頭数を見ると、日本は、ほんの10年前からは考えられない躍進ぶりなのではないだろうか。
栗東編集局 水野隆弘。