『初夢』
初夢を見るタイミングには諸説あるそうですね。一年の最初に見る夢ですから、元日朝に目覚めた時の印象が強そうなんですが、大晦日から元日朝にかけては、初詣やら挨拶回りやらで慌しく、夢を見ている時間はないような気もしますから、やっぱり元日夜から2日朝にかけて、がしっくりきますか。
いやあ、のっけから夢の話、それも2月の声を聞いてからの初夢の話もなんですが、ここ十数年来見続けていて、また今年も見てしまった夢があるのです。
日本のジョッキー達が、世界各地で活躍している姿。
え?いるじゃないか?凱旋門賞とかドバイワールドCとか、世界的に大きなレースに騎乗するジョッキーは確かにいます。ただそれは、日本馬が遠征した場合が殆ど。私が言うのは、日本馬の遠征とは関係なく、その地区に腰を落ち着けて、つまり複数年所属して騎乗し続けるジョッキーのことなんです。
野球やサッカーといった日本を代表するプロスポーツに関しては、今更ながら何人もの選手が海外に移籍していますね。しかもその何人かは本場で殿堂入りするんじゃないか、というくらいの活躍ぶり。ゴルフだってかつての青木功、岡本綾子を筆頭に、レギュラーシーズンをアメリカで、という選手が近年たくさん出てきました。
プロスポーツとしては、日本ではそれほどメジャーではない競技(すみません)でも、ラグビーの村田亙とかバレーボールの加藤陽一とか、バスケットの田臥勇太は有名ですが、とにかく本場のトップレベルのリーグや団体に所属して活躍している選手が、各競技に何人かずつはいます。
で、競馬は?
騎手が活躍しようとする場合、本人の才能だけではどうにもならない部分がたくさんありますし、移籍する際の制度上の障壁や、その他いろいろな問題も含め、海外で定着するのが大変だというのは重々理解しているつもりです。でも30年近く前に15歳だか16歳だかでブラジルに渡ったサッカー少年も大変な苦労があったでしょうし、上に記したアスリート達の歩みも楽ではなかったでしょう。同じプロスポーツとして見た時、内容的に成熟していて興行的にも成功している日本の競馬社会から、海外−敢えて言えば本場のパートT国−へ移籍するようなジョッキーが皆無であることの方が不思議というか、ちょっぴり寂しい気もするのです。勿論、今も青木騎手や松田騎手のような長期の“留学”とか“滞在”というスタイルはありますが、そういうのではなくて…。
昨年、ノーベル化学賞を受賞した根岸英一さんが「日本の研究者が海外に出ていかなくなったのは憂うべきこと」と言っておられました。その要因として「日本の方が居心地がいいものですから」と言っておられたのは鈴木章さんの方でしたか。
同じレベルで扱おうとは思いませんが、どうにも構図が似ているように感じられてなりません。賞金が高くて、マスコミは大人しくて、ファンも紳士的で…。まさに日本の競馬は楽園なのかもしれません。
いみじくもミルコ・デムーロ騎手が、弊社週刊誌の新春ジョッキー対談の中で、福永騎手に言ってました。
「もしきみが競馬が好きなのなら、他の国へは行けないよ。それほど日本の競馬すごくいい。きみはすごくラッキーなんだよ」と。
しかし…。
夢の続きは、例えばパリに、ロンドンに、アメリカだったら西海岸かニューヨークかに観光で訪れたとしましょう。その先々で何気なく競馬場を覗いてみたら、当たり前のように日本のジョッキーがいて、リーディングなんかを争っているのです。
それが日常になっていて、彼らについて海を渡る日本人スタッフも増え、マスコミ人もより海外の競馬に触れています。そしてその人達も様々なことを吸収し、新しい視点から情報を発信してるんです。それで世界がもっと身近になり、“差”も縮まることにもなっているんですね。
そんなふうなところまで夢見た後、いつもハッと目が覚めて我に返るのです。
でも、そういうことが本当の意味でグローバルスタンダード化するってことじゃないかなと。そして実はこれが最も重要なことかもしれませんが、そんな過程を経てこそ、より日本らしさが輝き始めるのではないか、と思えるのですが、どんなもんでしょう。
しょせん“夢”ですかねえ?
美浦編集局 和田章郎 【和田章郎プロフィール】 昭和36年8月2日生 福岡県出身 AB型 1986年入社。編集部勤務ながら現場優先、実践主義。競馬こそ究極のエンターテインメントと捉え、他の文化、スポーツ全般にも造詣を深めずして真に競馬を理解することはできない、をモットーに日々感性を磨くことに腐心。そして固定観念に縛られないよう、様々な要素を織り交ぜつつ競馬と向き合い、理想と予想の境界線を超えられればと奮闘中だが、なかなかままならない現状。