新春騎手対談
12月は3場開催でしかも連続G1。例年のことながら当日版(土日の新聞)の業務量だけでも嘆息が漏れるのに加えて週報関連でも処理すべき案件が山積。正直煮詰まっている。関西圏のファンならご存知のKBS京都の競馬中継番組『競馬ワンダーランド』が年内で終了するため、出演スタッフ中心だったリレーコラム『週刊ビデオ』もそれに合わせて打ち切りを決めた。先日、京都競馬場に出向いて出光ケイさんとベテランアナウンサーの久保房郎さんに挨拶をさせていただき、同時にコラムの終了もお伝えした。長く活躍されたふたりだからこそ直接お会いして自分の言葉で慰労したかったのだ。長年にわたって携わってきた番組が姿を消すのはさぞ寂しいだろうに、ご両人ともに沈着な対応をされていたのには感じ入った。今回の終わり方については残念な部分もあるが、物事に終わりがくるのは必然であり、こういった瞬間は誰にでも平等に訪れるもの。これまでのこと、そして今後のことも含めて様々な想いが去来した。KBS京都の競馬中継が始まったのは1969年春、つまり40年以上も関西地区の競馬ファンに親しまれてきた歴史がある。来年から時間を短縮して新たにスタートする『うまDOKI』が競馬を活気づけられる番組になって欲しい。
『競走馬の心技体』も年明けで丸3年続いた連載に区切りをつけることになる。このコラムでも何度か取り上げたが、ファンの皆さんだけでなく我々競馬マスコミにとっても競馬の教科書となりうる学術的な記事を掲載したいとのコンセプトでスタートしたこの企画は読者の方はもちろんのこと、競馬関係者の方々からも想像以上に多くの支持をいただいた。個人的にはまだまだ続けて欲しいとの気持ちなのだが、連載がスタートした当時とは立場が変わった方や途中で体調を崩された方もいらっしゃって、諸事情を考慮するとこのあたりでひと区切りつけるべきとの結論に達した。以前は馬券の当たり外れに振り回されていた知人たちの間で、最近は馬学の基礎知識や競走馬の本質について踏み込んだ考察をする習慣が出てきているように、その影響力は想像を遥かに超えたレベルにある。連載こそ終了するが、執筆を担当された平賀さん、楠瀬さん、青木さんのお三方には競馬のために今後も活動を続けていただきたい。
12月14日(火)は新年号に掲載する新春騎手対談に立ち会うべく栗東へ。最初にやってきた騎手と握手しながら相手の顔を眺めると彼が初来日した11年前の記憶が甦る。追い日にトレセン調教スタンド1階の騎手控え室に一人ポツンと坐っている外国人の若者がいて、所在なげなその様子を見て関西弁で言うところの“いちびり”の血が騒いでしまった。「イタリアだったらセリエA。私は日本人だからローマのヒデ・中田を応援してるけど、君は誰が好き?」と声をかけた。競馬のありきたりの会話を避けてサッカーネタにひとひねりしたのが正解。「ヒデもいい選手だけど、ローマだったらやっぱりトッティ」との返事が即座に直球で返ってきた。ブロークンな私の英語が通じたのも嬉しかった記憶があり、通訳の女性に11年前のその話を伝えてもらうと、一瞬こちらを凝視した彼が「Oh,T remember」とニヤリと笑った。忘れて当然の会話だったが、その笑顔からは場を和ませるための優しい気遣いが感じられた。普段は穏やかで空気の読める人間だが、馬の背に跨ると厳しい表情に一変する。これがミルコ・デムーロ騎手の魅力でもある。
次に登場したのは関西リーディングジョッキー部門のトップを突っ走る福永祐一騎手。10代の赤帽の頃から知っている人物だが、最近は落ち着きを増しており、昔ほど気安く呼び捨てたりはできない。それでも昔の付き合いに甘えて勝手に“祐一”と呼ばせてもらったが、自信に満ち溢れた隙のない言動にはこちらが圧倒され気味。騎手としても人間としても風格が出ている。言わなくていいことをついつい口にするのが私の致命的な欠点だと自覚しながらも、34歳にして独身の彼に「結婚する予定はないのか?」との質問をぶつけた。「結婚願望が強い訳ではないけど、全然ない訳でもない。いまはその気がないというだけ」との返事はだいたい予想通り。そこで聞かれてもいないのに「結婚なんてのは“勢い”か“なりゆき”か“勘違い”じゃないとできないもの。完璧な結婚を目指して理想を追うと生涯独身だぞ」とそこでまた語ってしまった。黙って笑うだけの祐一だったが、内心、私の口に呆れ果てていたことは想像に難くない。
どちらも前週に6勝の固め勝ちをやってのけただけでなく、福永騎手はG1の阪神ジュベナイルフィリーズを制し、デムーロ騎手はG3の中日新聞杯を制したのだから凄い。そんなふたりの協力もあって予想以上の盛り上がりを見せて無事に騎手対談が終了した。サッカーや結婚の話は一瞬だけで、競馬談義、騎手論といった興味深い会話が展開されたのは当然だが、それについては新年号をご覧いただきたい。最後にふたりの撮影に飛び入り参加でスリーショットに収まったのは例年通りだが、一昨年に「村上さんって、意外にミーハーなんですね」とある人物に突っ込まれたのを思い出す。今年は飛び入りせず大人しく見守ろうと考えていたのに結局はこの有様。まあ、幾つになっても人間の本質は変わらないという証しでもあるが、添付した写真の白髪頭の自分を見てさすがにガックリ。この原稿は携帯(写真掲載なし)でご覧になるのが正解である。そして、今後は二度と飛び入りして醜悪な姿を見せないぞと固く心に誓ったが、もう遅すぎる。
競馬ブック編集局員 村上和巳