NG特集・3
先週の原稿でこれまでに私が体験した数多い失敗談のなかのひとつを取り上げたところ、大阪市内のKさんから「もっと笑える話やオチのあるネタを」とのリクエストがきた。このコラム本来のコンセプトから外れている気はするが、ずっと身勝手な原稿を書き続けてきた私でもあり、Kさんの希望を無視するのも気が引ける。9月に入っても猛暑が続き思考力が減退していることでもあり、今回は過去のチョンボ&トラブルのなかで比較的罪のないものを選んで“NG特集・3”として紹介しよう。
◇Episode(1)・新米記者の朝寝坊◇ 入社数カ月での出来事。土曜朝3時半に起きてトレセンへ。Bコースの採時を担当して8時前に出社。9時に競馬場へ出発するため一旦帰宅して着替える。そこで10分だけ仮眠を取ろうとして爆睡。気づいたら昼の12時。競馬場行きの便は出払い、出馬発表にも間に合わない失態を演じた(全身大汗)。
◇Episode(2)・トレセンの人脈◇ これも入社間もない頃、午後の厩舎回りでの出来事。大仲部屋である騎手の話題が出た。周囲のスタッフが揃ってその人物を酷評するので馬房で仕事をする厩務員のところへ行った私が「あの騎手、評判悪いですよね」と発言。すると相手は「アイツはワシの娘婿や!」と烈火の如く怒った(茫然自失)。
◇Episode(3)・某調教師との口論◇ 15年ほど前の函館競馬場。いつも通り朝取材をしている私の前に某調教師が立ちはだかった。「村上、お前な、ウチの厩舎だけ想定表持ってこんやないか。差別しとるやろ」と声を荒げる。「そんなことしてませんよ」と反論する私を厩舎関係者たちが取り囲む。険悪な雰囲気になった(顔面蒼白)。
◇Episode(4)・相手は見知らぬブロンド美人◇ 出張先のある夜。馬券で稼ぎ浮かれ気分で「Raindrops are falling on my head♪」と歌いながら都内某所を歩いていると「too big for his bed♪ nothing seems to fit those♪」と見知らぬブロンド美人が私の腕を取って同じ曲を口ずさみつつ微笑んでくる。ムフフフ…(満面笑み)。
(1)は弁明不可能のチョンボ。うなだれて編集部に出向くと「村上。具合悪いんやったら家に帰って寝とけ」と先輩の内勤スタッフ。話を聞いてみると車に同乗して競馬場に行く予定だった現場のチーフが「村上は熱があるから、今日は休ませる」と指示していたという。後日に判ったのだが、私の担当厩舎の馬が熱発した話を聞き間違えたらしい。社内の他のスタッフも「帰れ」というのでこの日は黙って退社。自宅で密かに反省していると夜になって本当に発熱した。事実は小説より奇なりである。
(2)を思い出すと反省しきり。当時のトレセンは考えられないほど閉鎖的で厩舎関係者には親子、兄弟、親戚が入り混じっていた。上司に「取材に行ったら絶対に人の悪口を言うな」とアドバイスされていてこの始末。その後は他人の批判をせぬようにと努めてきたが、根が口から先に生まれたようなこのキャラ。この後も何度か同様の失言を繰り返しながらなんとか乗り越えて現在に至っている。
(3)は絶対絶命のピンチ。相手の調教師とは日頃から折り合いが悪かった。マスコミ軽視が基本姿勢で人間性も嫌味の塊。調教師にもいろんな人間がいる。しかし、当時の私は担当全厩舎に公平に資料を配っており、それが紛失した経緯についてまで責任は終えないと反論。我々を取り囲んで様子を見守っていた厩舎関係者の大半が「話を聞く限り村上は悪くない」と味方してくれた。正直、このときは感激した。すっかり劣勢になった調教師は「こいつは信頼できん奴や」と不満げに吐き捨ててその場を去った。それから数年後、彼は競馬法違反で免許を取り消されトレセンから姿を消した。 (4)は笑い話としていまでもネタにしている。普段は常識に満ちた健全な社会人として生きる私だが、出張先で馬券が儲かり、しかも手頃に酒が入っている状態。これ以上開放的な状況はない。そんなときに米国映画から抜け出たようなブロンド美人に寄り添われると鼻の下が長〜くなるのも当然。はしゃいで“雨にぬれても”のフルコーラスをしっかりデュエット。“ついに俺も国際派か”と訳の判らぬ発想をして恍惚となったが、キムタクやヤマピーじゃないのだから世の中がそう甘いはずもない。ひと言、ふた言会話を交わした途端、私は“I’m busy”を連発して彼女を振り切って逃げ出していた。なんとその女性は“ガイジン好きな酔っ払い”をターゲットにするProfessionalだったのだ。
競馬ブック編集局員 村上和巳