複コロリレー成功!
競馬ブック当日版(土日の新聞)の2面欄外に『複勝コロガシリレー』がスタートしたのは2回阪神3日目。“ワンコインを1万円に”がコンセプトで500円を5人のスタッフで転がして20倍にするという企画。よくある複勝転がしはまとまった金額でスタートして3着までにきそうな馬の複勝を買う、いわば守りの馬券作戦。それと異なるのは目標値を決めていることで、そうなると1.2倍程度の複勝を狙っても意味がない。参加スタッフは攻めの姿勢で妙味ある馬を選ぶ必要がある。ちなみに、この目標を達成するには5レース連続で1.9倍の配当を的中させるのが基本パターン。立案・企画担当の坂井直樹記者が各人にコンセプトを伝えて新企画がスタートした。数字上では簡単そうにも思えるが、現実としては5レース連続的中自体が難しい。
一般ファンの方なら出来上がった新聞片手にオッズを確認しながら馬券を買うことになるが、新聞紙面に狙い馬を載せる以上、当然ながら予定原稿はレースの前々日に上げなければならない。枠順も決まっていなければ本紙の印も決まっていない段階で想定表を見ながら能力比較。そして、各馬の人気までをも読み切って狙い馬を決めるのは想像以上に難解。更に“コロガシリレー”ともなると順番も大きな意味を持ってくる。つまり、誰でも同じなのはアンカーだけは避けたいという心理が働く。4人連続して的中した場合のプレッシャーは相当なものになる点を考慮してスターティングメンバーは抽せんで決めるシステムとなっていた。
参加10名を五十音順に紹介すると足立雅樹、甲斐弘治、小原靖博、坂井直樹、西村敬、橋本篤史、羽生佳孝、三浦幸太郎、牟田雅直、山田理子の各記者。1回目、2回目とそれなりに盛り上がりながらも途中で挫折。見守る側は気楽なもので「今度は大丈夫やろ」「全部3着にきても20倍にならんのちゃうか」とあれこれ茶々を入れる。なかでも一番無責任に口を出しているのが私であり、こんなときこそ人間の本質が顔を覗かせるということなのだろう(汗)。そんな周囲の騒音にもめげず黙々と続けられた『複勝コロガシリレー』は惜敗あり完敗ありで残念ながら不成立つづき。馬券の難しさを編集部全体が改めて認識することになった。
そして3回京都3日目。橋本が選んだ1Rのグランプリバレットが競走除外。いきなり水を差されて「ヒットを狙ってデッドボールを食ったようなもの」と誰かが呟く。馬券は払い戻しとなり、2番手西村の指名馬は6Rのチキリユキヒメ。7番人気のこの馬も出遅れて前途多難と思わせたが、追い比べで3着に入線。上位人気馬が崩れたこともあって複勝配当は5.0倍。資金は2500円になった。3番手甲斐の指名馬は10Rのサクラロミオで1着。1.7倍の配当で4250円となり、端数の50円を引いた4200円で第4走者へバトンタッチ。残るは11R、12Rを担当する坂井と足立で、どちらも思い切りよく穴を狙っている。「両方当たるのは難しそうだな」「でも、両方当たったら配当はデカいぞ」と周囲は一段と騒がしくなる。そして11Rで5番人気のヒットメーカーが3着に入線。配当は2.7倍でトータル11340円+50円。この段階で目標額を突破した。
12Rの指名馬は7番人気。「予定金額を超えたから打ち切った方がいいんちゃうか」「最後の狙いはキツいやろ」と周囲が騒いでいる間にファンファーレが鳴り響く。アンカー足立の表情がいつになく硬い。内3、4番手の絶好位につけたマイネルプロートスが直線で力強く伸びる。競馬場記者席も栗東編集局のテレビの前も騒然。全員が同じ馬しか見ていない。「しっかり追え!ウィリアムズ!」「よっしゃ!ぶっちぎれ」との歓喜の声と拍手が入り混じるなか、狙い馬は1着で見事にゴールイン。この瞬間『複勝コロガシリレー』は見事に成立。3.9倍の配当で最終的には500円が44160円(44070円+90円)、88倍強にふくれ上がった。
最終レース後にスタッフを祝福した。「大爆発です。一度結果が出てホッとしました」(坂井)、「熱発しててしんどかったんですが、仕事にきた甲斐がありました」(足立)とどちらもまずは安堵した様子。面白かったのは「競走除外の俺は貢献してませんよね」と漏らした橋本。それに対しては「元返しでもきちんとバトンリレーしたんだから貢献者だ」と返した。それぞれが責任感、連帯感をきちんと共有した発言をしており、この“複勝コロガシリレーチーム”が組織として十分機能したことが判る。団体競技において目標をクリアしたときの達成感は個人競技のそれとは比較にならないほど大きいもの。その意味でこの企画からは様々な副産物が生まれたようにも思える。毎回とまでは言わないが、今後もさすがプロ集団と思わせる渋〜いコロガシリレーをしてひと開催に1回ぐらいは決めて欲しい。今後は私も500円玉を握り締めて個人参加する予定だから。
競馬ブック編集局員 村上和巳