先週はずっと本ばかり読んで過ごしたような気がする。発売後数日で100万部を突破する驚異的な売れ行きを示している『1Q84』にも関心はあったが、その新作に飛びついている世間を思うと生来のヘソ曲りの虫が騒ぎ、結局は同じ作者が20年ほど前に書いた『ノルウェイの森』を本棚の奥から引っ張り出してくる破目になった。通勤電車内と限られた暇な時間帯限定の読書のために上下巻を読み終えるのに5日ほどかかり、やっとひと区切りついたのが18日。そこでふと翌日が“桜桃忌”なのに気付き、19日からはセピア色というより、もう完全に赤茶色に変色した年代物の文庫本を鞄に詰め込んでの通勤となった。数十年ぶりで目を通したにもかかわらず時代感覚のずれが感じられない内容に熱中。結局は同じ作者の小説を短編も含めて5冊も続けて読破した。そのぶん競馬新聞に目を通す時間が少なくなって週末の馬券は完敗したが、これはまあ自業自得というヤツ。とことん本を読む気なら馬券を休むべきであり、馬券を買うのならば読書を中断してじっくりと新聞で検討すべき。幾つになってもそういった基本的な判断ができないのだから我ながら情けないというかなんというか……。
休日には図書館にも行った。新たに買うのは躊躇われても一度目を通しておきたい本が何冊かあり、それならば登録カードをつくって本を借りようとの魂胆だった。しかし、自宅から徒歩20分ほどの場所にある図書館にやっと辿り着いたところで入り口に“火曜日は休館”の札が下がっていて愕然とした。月火が休みの私にしてみれば、月曜日は生産的なことは一切せずゴロゴロと怠惰に過ごし、火曜日になって最低限のアクションを嫌々起こすのが通常のパターン。月曜日に動き回るのは限りなく不本意ながら、来週は休日を活動的に過ごそうと決心した。予定が大幅に狂ったため、急きょ思いついてカットハウスに入ってみた。肩まで伸びた髪をゴムでくくっている私の姿に「どうしましょう」とその奇怪な風体に戸惑いつつ言葉をかける若い店主。その様子が面白くて「どうしたらいいと思う?」とじらす私。3分ほど攻防があって最終的には「暑いから普通のサラリーマンカットにして」で決着。予備知識もないまま飛び込んだ店だが、空間をゆったりと使っていてBGMにレゲエが流れるノンビリした雰囲気が私なりに気に入った。よ〜し、秋、いや冬ぐらいにはもう一度襲ってやるぞ。
この1週間はバタバタしたが、特に週末はウオッカの動向に悩まされた。宝塚記念の出否がはっきりしないため、週刊誌での扱いが難しかったのだ。なんといってもファン投票1位の人気馬なのだから出ると出ないとでは検討文、厩舎レポ、血統アカデミー、広角視点、フォトパドックとすべての記事に大きな影響が出る。担当者と密に連絡を取って状況を見守ったものの、なかなか埒が明かない。金曜日の段階では出走と回避と2本立ての原稿を用意してこれで大丈夫と区切りをつけたが、ふと考えてみたところ、週刊誌の最終校正が終わった日曜日の夕方以降に発表があった場合にはまったく対処できないことに気付いた。だからといってこちらの憶測で勝手に出否を決めるという訳にもいかない。もう完全に他力本願状態だったが、日曜日になって角居調教師がマーメイドSが終わった段階で回避を表明するとの情報が入り、それを確認することを前提にしてウオッカを外した誌面づくりを決定。この間、各部署や外部組織と頻繁に連絡を取り合い、もう完全に顎が出ていた。
当代人気No.1の出走回避はレースの盛り上がりや馬券の売り上げを考えれば残念だが、競走馬が生身の生き物である以上、無理はして欲しくない。梅雨を迎えたこの時季は競走馬にとって蒸し暑さを凌ぐだけでも大変であり、また降雨が多いことから馬場状態も悪くなるケースも多い。所謂消耗戦になりがちな宝塚記念に出走した場合、秋以降の競走生活に影響を及ぼすケースも少なくはない。そう考えると、投票で1位に選出した人々の気持ちを考えながらも回避を選択した関係者の判断は正解だった。夏場をゆっくり休養に充てて英気を養えば秋にはまた素晴らしいパフォーマンスを見せてくれるだろう。引退後のウオッカにはその血を受け継ぐ産駒を送り出すという大切な仕事が待っているのだから、とにかく無事に競走生活を終えて欲しいと切に願う。
競馬ブック編集局員 村上和巳