例年、ダービー翌日の月曜日には小社主催の懇親会が行われる。これまではこぢんまりとした内輪のパーティーだったが、今年は場所を銀座から品川の某ホテルに変えて70名ほどのゲストを招待する本格的な懇親会となった。お集りいただいたのは週刊競馬ブックのレギュラー執筆陣をはじめ、JRA、地全協、そして競馬業界の第一線で活躍されている方々。私がこの会にホスト役として参加するようになって5年目。毎回、乾杯のあとは全員にスピーチをしていただいているが、それぞれが当意即妙のコメントで場をなごませてくれる。
「実は競馬ブックとはJRAに入る前からつき合いがあります。学生だったその昔、十三の工場でしばらく週刊競馬ブックの製本のアルバイトをしておりまして、その頃から競馬に関心がありました」
これはパーティー初登場のN氏。渋味を漂わせた人物である。製本のアルバイトとは日曜夜から翌日の明け方まで続くハードワーク。競馬好きでなければなかなか勤まらない仕事ではある。当時から競馬に熱中されていたからこそだろうが、当然、学生の頃は馬券なんか購入していませんでしたよね、Nさん。
「村上さん、現場の方は僕のことを本当に“怪しげな小太りの中年”と言ったんですか?肥満オヤジとはよく言われますが、“小太り”と優しく表現されたのは初めてなので戸惑ってしまって」
『香港競馬論序説』の甘粕代三氏からの質問だ。丸顔に眼鏡の風貌は東アジアの某国主席を彷彿させる。中京競馬場に遠征した彼が記者席に乱入。ファックスで原稿を送らせてくれと申し出た際に立ち会ったK記者が「小太りの中国系みたいな怪人が何度か送信に失敗してました。誰ですか?」と電話を入れてきたのだ。なぜ“小太り”と表現したかというと、体型が丸いというより球体に近いKは自分より体重のある人間しか“太っている”と言わない。だから甘粕氏を“小太り”と呼んだだけの話だが、“中国系の怪人”とは言い得て妙だ。
昨年は『競走馬の心技体』の“心”を担当されている楠瀬良氏が初参加されたが、今年は、平賀敦氏と青木修氏にも参加していただき文字通り“心技体”のお三方が勢ぞろいした。連載がスタートして間もなく1年半。最近はトレセンの厩舎スタッフやJRAの職員の方にまで「いつも楽しみに読んでるよ」と声をかけていただく。飄々とした独特の雰囲気の楠瀬さん、トークにいつも情熱が感じられる平賀さん、そしてジーンズ姿が似合う軽妙洒脱な青木さんと、それぞれが「連載は続けられる限り続けましょう」と約束してくれた。一昨年秋に心斎橋のバーで緊張しつつ話したことや宇都宮の競走馬総合研究所まで執筆依頼に出向いたのが懐かしい。 途中からは立食パーティーのようにそれぞれが思い思いのテーブルに移動して歓談するなど熱気に溢れ、我々ホスト側の至らない面を出席者の皆さんに補っていただいた。満足はできないまでも格好のつけられる懇親会になったかなとは思っている。今年も立場を考えてウーロン茶で我慢しながら各テーブルを回ったが、時間が足りず挨拶できなかった方がいたのは残念だった。最後に主催者側の挨拶が回ってきたが、一昨年は長々と喋って「口のうまい村上」と小社・水野隆弘に突っ込まれ、昨年はスタッフ紹介だけで済ませて「手抜きはいけませんよ」と芦谷有香さんに諫められたため、今年は長からず短からず中庸の精神(?)で逃げ切った。
二次会には40名ほど、三次会にも20名ほどの方に参加していただき、飲んで喋って飲んでと実に楽しいひとときを過ごせた。競馬を生業にしている方々にはアクティヴでタフな人種が多いが、そんな人々が集まった今年の宴会において誰しもがMIG(Most Impressive Guest)と認める圧倒的な存在感を示したのが『理想と妄想』でお馴染みの乗峯栄一氏。笑って、語って、場を仕切ってと初出走とは思えぬ八面六臂の大活躍。血統評論家の吉沢譲治氏を筆頭にかなりの方々が乗峯パワーの凄さにただただ感動していた。例年、このパーティーで主役を務めているかなざわいっせい氏が欠席されたために同郷、同世代の“乗峯VSかなざわ”のドリームマッチが実現しなかったのは残念だが、それは来年以降の楽しみとして残しておこう。
競馬ブック編集局員 村上和巳