・キングオブカルト ・キングスエンブレム ・クリスタルウイング ・ダイバーシティ ・タケミカヅチ ・ノットアローン ・ファビラスボーイ ・マイネルチャールズ
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身に覚えのある方もいらっしゃると思うが、長く競馬をしていると新聞の馬名を眺めるだけで結果が見えてくるなんてことが稀にあるもので、13日(土曜日)の夜がまさにそれだった。仕事の区切りをつけてJRに飛び乗り、空いている座席に腰をおろしたときのことである。関東版の新聞を広げると一面を飾っているのが京成杯オータムハンデ。出走馬16頭を上から順に眺めているとレッツゴーキリシマの馬名が目に飛び込んできた。レース条件を確認してみると中山コースの芝1600メートル戦であり、古馬相手とあってハンデも53キロと手頃。それでいてあまり人気がなさそうな点がなんとも魅力である。この段階でレッツゴー絡みの馬券を買おうと心に決めた。そしてこの夜、眠りに就く頃には翌日の馬券での勝利を確信して疑わない私がいた。
現役バリバリのレッツゴーキリシマについてクドクド書く必要はないかもしれないが、何故この馬に注目したかを少々書いてみる。昨年の朝日杯FSで2着に健闘して今年の皐月賞でも5着と頑張ったのはご存知の通り。この段階で中山コースが合うタイプだということは明白。その後はNHKマイルC、ダービーと転戦して9着、13着の完敗。春競馬が終わった時点で東京コースも長い距離も向かないと結論づけることができそうだ。と、ここまではごく常識的な見解である。今回私が注目したのはこの京成杯に出走してきた点。3000メートルの菊花賞はともかく、3歳の秋という時期を考えればまずは神戸新聞杯を目標にするのがごく普通。そうしなかったあたりに、この馬の適性を考える陣営の深慮があったのではないか。それならば緒戦としてひと叩きするというよりは秋後半に進むべき路線を模索していると解釈できる。陣営とすればいきなりから結果を出したいはずであり、3週連続してビシビシ追い切りをかける仕上げにもそれが窺えた。もう好走は間違いなさそうだ!
レース当日の14日の午後。珍しく社内のスタッフふたりから「中山メインはどの馬がくると思いますか」と声がかかった。現場取材を担当して新聞紙面で予想していた頃はよく「取材してみて感触がよかった馬は?」「狙い馬を教えてください」なんて質問を受けたものだが、内勤になってもうすぐ7年。馬券の下手さランキングでは栗東編集局で常に首位争いを演じるまでに退化した私に質問をしてくる人間なんてまずいない。“私に軸馬を聞いてそれを外す手なのか?”と疑心暗鬼になりながらも「開幕週の中山センロクで53キロならレッツゴーキリシマ狙い。それしかないだろ」と口に出していた例によってお調子モンの私。幾ら年齢を重ねても持って生まれたこの軽薄さは変わらない。なんというか、まあ情けないが、要するに狙い馬がくればいいのである。
レース結果の細かい描写は不要だろう。好スタートを切り、好位で流れに乗った我が軸馬レッツゴーキリシマは10番人気の低評価を嘲笑うように2着。推理はほぼ完璧だった。私だってやるときはやるのである。このレースの狙い馬を尋ねてきた社内のふたりは「馬連をとりました!」「ズバリ的中っすね、私は3連複ゲットです」と意気揚々。続けて「村上さんは3連単ですか、それとも馬連?」と質問を浴びせてくる。それに対して「うん、ステキシンスケクン(3着)を本線にして馬連を何点か。まあ、私のことは別にいいから……。その調子で、この秋はふたりとも頑張りなさい、応援してるよ」と小声で答えつつ肩を落として彼らのもとを去った。
この日の夜は家で飲んだ。体調が今イチで数日間酒を控えていたが、いわゆる“自棄酒”をアオる破目になったのだ。私はレッツゴーを軸にステキシンスケクンとの馬連をほぼ1点(押さえが2点)勝負。ラスト100メートルで外からキストゥヘヴン、その直後からステキシンスケクンが伸びてきたときは一瞬痺れた。しかし、すぐに馬券が外れるのを覚悟した。藤田伸二騎乗のキストゥヘヴンの脚色が他馬とは違っていたのだ。“人気薄から買うなら総流し”のセオリーを無視した自分をまず反省したが、それ以上に一昨年の桜花賞馬で当日3番人気の馬をイメージだけで外した軽率さを恥じた。焼酎をお代わりしながらこの春に届いた「また一緒に飲みたいね」と書いてある伸二からの返信メールを見直してふと思った。もし、強気の彼にこの件がバレたら、“俺を外すから馬券がとれないんだよ”と口撃されるのは間違いなし。今回の件は内緒にしておくつもりだが、このコラムをご覧になっている伸二と親しい方には、黙って読み流していただきたい。くれぐれも他言は無用ですぞ。
競馬ブック編集局員 村上和巳
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