・キクノアロー ・サンライズバッカス ・ナナヨーヒマワリ ・フィフティーワナー ・メイショウトウコン ・ロングプライド ・ワンダースピード
・カイゼリン ・カレイジャスミン ・シングライクバード ・ユキチャン ・レッドアゲート
傑出馬が不在で混戦とされていた今年の皐月賞。飛び抜けて能力の高い馬がいないのならデキの良さを最大限に生かした馬かうまいレースをした馬が勝つのが競馬。その意味からすると、勝った馬はその両方を持ち合わせていたと言えるのが今年の皐月賞だったのではないだろうか。
◇キャプテントゥーレ◇ 18キロ減の446キロでの出走だったが、好位を追走しながら伸び切れなかった前回の弥生賞が464キロとデビュー以来の最高馬体重。見るからに童顔でまだ体つきにも子供っぽさが残るだけに安易に太い、細いと決めつけられない部分はあるが、当時は仕上げ過程で速い攻め馬が1週飛んでいた。気象(雪等)の影響なのか誤算があったのかは分からないが、そのぶん余裕残しの体だったと推理できる。つまり、今回の18キロ減は“細化”というよりも“究極の仕上げ”だったのだろう。本質的にはマイルぐらいの距離がピッタリと思われるが、気合いをつけてハナに立ち、雨上がりの緩い馬場で前半1000メートルが1分1秒4。単騎で逃げてこのペースなら距離も問題にならない。4角でスッとペースを上げて後続を引き離した段階で勝ち馬が決まった。先行策が考えられたノットアローン、スマートファルコンあたりが発馬でモタついたことに助けられた感もあるが、究極の仕上げを生かした川田騎手の積極策が奏功。他馬を不完全燃焼に追い込む完璧な逃げで見事に一冠を手中に収めた。
◇タケミカヅチ◇ ガッチリした厚みのある体形だが、久しぶりに500キロを切る絞り込んだ体つきでの出走。前半は中団の内目で折り合いに専念。3角手前から差を詰めにかかると、行く先々で1頭分前があいていて労せず好位に取りつくというまったくロスのないレース運び。ゴール前の横一線の2着争いをなんとか凌ぐ。恵まれた部分もあったが、それ以上に鞍上の意のままに動けるセンスの良さが目についた。お母さんのカズミハルコマが1600メートル以下で活躍。母とはタイプが違うにせよ、2000メートルぐらいまでが守備範囲かなと思っている。
◇マイネルチャールズ◇ 牡馬にしてはそう大きくないが、仕上がり自体は文句なし。位置取りについて指示があったのか、それともダッシュが鈍かったからか、前半は10番手あたりをじっくり追走。1番人気馬に跨っている松岡騎手にすればこの段階でもう少し前の位置につけたかったのではないか。勝負どころから揉まれる形になり4角では鞍上鞍下ともに激しくもがいていたが、それでも直線でハミを取ってからはグイッと差を詰めて2着争いに加わった。このあたりが底力といえば底力であり、馬込みを苦にしない精神力も立派だが、この競馬で勝ち切るのは至難。1番人気に支持されたのは当然とも思えるが、今年のメンバーのなかで傑出した存在ではなかったということだろう。
◇レインボーペガサス◇ テレビ観戦ながら馬体に張りがあって気配の良さが目についた。少々うるさいのはいつものこと。前半は後方でひたすら脚をためる。4角でも内目をついて手応え十分の追い上げ。一瞬窮屈になって置かれたが、そこから馬群の隙間をつくようにして追い上げる。ラスト100メートル地点からは目立つ伸び脚。スムーズだったら2着はあったかもしれないが、内を捌こうとするからには多少ゴチャつくのは仕方のないところ。デキが良く緩い馬場もむしろ得意と思えるだけに今後について語るのは難しいが、こと折り合いに対する不安は払拭できた。
◇レッツゴーキリシマ◇ 控える競馬をしたスプリングSでは外から他馬がくる度に行きたがる仕草。そのあたりを考えて、初めてチークピーシズを着用しての先行策。内枠でこの馬が行き切れれば面白いと思っていたが、16番枠でもあって無理せず2番手で流れに乗る形。速い脚がないぶん叩き合いで見劣ったのは仕方ないところ。小回りや直線が平坦のコースで楽に先行できるようなら今後も目を離せない存在ではある。
◇ブラックシェル◇ 馬体の良さはメンバー中で1、2を争うが、問題となるのは気性。姉シェルズレイがそうだったようにとにかく気性の激しさが目につく。イレ込みがキツかったきさらぎ賞では力を出し切れなかったように、レース当日の気配が大きなポイント。そんなタイプだからこそレースへ行って小出しに脚を使えない。陣営の努力もあって皐月賞当日はこの馬にとっては我慢できる程度のイレ込みだったと想像しているが、もともと中山の2000メートルでコンスタントに力を出し切れるタイプではない。この日のような切れ味を殺がれる馬場もマイナスだったろう。府中に替われば大きく変身して不思議ない器だが、あとは精神面がどうかに尽きる。
この原稿を書き終えた直後にキャプテントゥーレ骨折の残念な知らせが飛び込んできた。皐月賞馬不在の今年のダービーは更に混沌としてきそうだが、最後に皐月賞を見終えた感想をひと言。主役がまだまだ完成途上で幼さの残る3歳馬であることを考慮すればやむを得ない部分があるのを承知の上で、馬券を買って見守る側の気持ちを考えるなら、ジョッキーたちにはもっと攻める競馬、勝ちに行く競馬をして欲しいと思う。
競馬ブック編集局員 村上和巳
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