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いまから35年前といえばちょうど私が競馬をはじめた頃で振り返ると気が滅入る忌まわしい記憶ばかり。いわば人生の谷間に堕ち込んでいた時期でもある。当時の私は学生でもなければ社会人でもなく、レールから大きく逸脱した生活を送っていた。めざすものもなく熱中できるものもないままにただ漫然とその日その日を過ごしていた。日常と非日常の境界すらも明確でなかったような気がする。当時の私が道端でのたれ死んだとしても誰ひとりとして驚くような人間はいなかったはずである。
そんな私をごく普通の人生の入り口に連れ戻してくれたのは現在も交流がある友人Hだった。私の生活に必要以上には介入せず、声高に道を説くこともない。傍で明るく振る舞うだけだったが、暖かくておおらかな彼の背中に幾度救われたことだろう。怠惰で無気力な当時の私を黙って支え続けてくれた彼には心から感謝しているが、同様に感謝の念を抱いている対象がもうひとつ、それが競馬なのである。当時は社会悪の象徴とされていた競輪、競艇といったギャンブルのなかで、はみだし者の私が唯一興味を持ったのが競馬だった。ビギナーズラックとはよく言ったもので最初の頃は驚くほど馬券が当たった。必然的に週末に競馬場に通うようになり、月曜日には店頭に週刊競馬ブックが並ぶのを心待ちにするようになった。それは35年後のいまも変わらない。
当初は“馬は私を裏切らない”と自負。熱中できるものに巡り合えた幸せを感じた。しかし、それは単なる勘違いでしかなかった。半年も経たないうちに馬券がまったく当たらなくなったのだ。直感だけで馬選びをして当たりつづけるほど甘くなかった。結局はもとの駄目人間に戻ってしまったのだが、そこからが以前の私とは違っていた。乗り越えられない壁にぶち当たるとその場から逃げることしかできなかった人間が怯みながらもその壁に立ち向かえるようになっていた。競馬に取り憑かれたからこそ活力が生まれたといっても決して過言ではない。いまも人前で誇れるような人生を送っているわけではないが、私がこうしてまっとうに生きて行くキッカケをつくってくれた競馬には感謝している。月日を重ねる毎に競馬は生活の一部となり、1977年4月には競馬ブックに入社。それからは競馬を職業として現在に至っている。
国内では35年ぶりという馬インフルエンザの発生には衝撃を受けた。親しい競馬関係者がふと漏らした「35年前は自分の担当する馬をどうやって守るかだけで必死だった。しかし、いまは違う。これだけたくさんのファンに愛されている競馬をどうすれば再開できるのか。目先の保身や利害にとらわれず、競馬の将来を見据えた施策をサークル全体で打ち出すべきだろう」との言葉が耳に残る。進化するウイルスと人間との戦いはこれからも続く。混乱を収束させて早期に競馬を再開するためにも、JRAには危機管理体制のより一層の充実を求めたい。日本に根付いた競馬という素晴らしい文化を守るためにも。
最後に残念なお知らせを。インフルエンザに感染している馬の数が増えて競馬開催のメドが立たず、読者の皆様に満足していただける雑誌をお届けできそうにないと社として苦渋の決断をいたしました。よって、誠に不本意ながら8月20日発行予定の週刊競馬ブックは休刊となります。なお、20日号に掲載予定だった“馬インフルエンザJRAを直撃”“秋を待つスターホース・古馬編”は小社ホームページに転載してあります。会員以外の一般の方もご覧になれますのでぜひご利用ください。
競馬ブック編集局員 村上和巳 ◆競馬道Onlineからのお知らせ◆ このコラムが本になりました。 「トレセン発 馬も泣くほど、イイ話」⇒東邦出版HP