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生活圏を内地(北海道の人間は本州以南をこう呼ぶ)に移してかなりの時が流れた。真夏の東京に初めてやってきたのは10代の頃だったが、飛行機から出てタラップを降りようとした瞬間、空気そのものがサウナ室のような猛烈な熱気なのを初めて体感。眩暈がした。その夏は冷やし中華、ざる蕎麦、ざるうどんでひと夏を過ごした。私が麺類やパスタ好きになったのは暑さを乗り越えて生き延びるための自衛手段だったのだが、本州の気候に慣れたいまもその嗜好はまったく変わっていない。しかも、最近は食べるだけでは飽き足らず、休日になると自分で厨房に立つようになった。主なメニューはスパゲティ、グラタン、ピザなどだが、ただ単品をつくるだけでなく、野菜サラダやスープにも挑戦。ドレッシングを創作するまでになっている。
歳を重ねたせいか夏になると酢を使ったものが欲しくなる。ドレッシングも酢を隠し味にしてオリーヴ(サラダ)オイル、みりん、醤油を調合するのがベースで、時として少量のワイン、柚子胡椒、刻んだ大葉なども加える。根が大雑把な性格なので調合の比率はその都度違うが、基本的な味そのものにそう変化はない。このドレッシングがあれば野菜サラダはもちろんのこと冷製パスタ用のソースとしても十分に活用できる。胡瓜、大根、玉葱などをスライスしてそれに春雨、トマト、ブツ切りした蛸などを加え、ドレッシングをかければ素朴にして食べやすいサラダが出来上がる。少々バテて食欲がない夏場などにはピッタリで、これをつつきながらビールを飲むと至福の瞬間が訪れる。炭水化物抜きで食事が済ませられるのも胃腸に負担がかからなくて楽だ。
私と同じように北国で生まれ育ちながらある時期を境に生活圏を本州に移しているのが北海道産のサラブレッドである。地球の温暖化が進み日本の気性が亜熱帯に近づいているといわれるこの時代に寒冷地育ちの競走馬がどんな工夫をしながら暑さと戦っているのだろうか。そう考えて信頼できる関係者に馬たちの夏場の生活ぶりについて聞いてみた。取材対象は山内研二厩舎の持ち乗りの市川和典クン。2000年にシルクプリマドンナとのコンビでオークスを勝っている実力派調教助手。夫人も結婚前は飯田明弘厩舎で調教助手をしていた経歴の持ち主という競馬一家で、穏やかにして知的な雰囲気の人物である。
村上「昔のトレセンでは暑くなると馬房の前に氷柱を立て、扇風機で風を流して暑さを凌いでいたけど、最近はクーラーを使っている厩舎も増えているみたいだね」
市川「クーラーを使っているところもありますが、競走馬に冷房がいいのかどうかの問題はありますよね。だから、冷風機を使って空中に水蒸気を撒いているところもあります。これと、あとは扇風機が多いですね」
村上「私が厩舎回りをしていた頃は馬の飼料といえば燕麦、フスマ、切り草が主だったけどいまは?」
市川「新しい配合飼料が増えてますよ。草を醗酵させて作った飼料やサプリメントなんかも与えてます。要するに、栄養のバランスが取れて、消化、吸収がスムーズになるようにと考えてのものなんです」
村上「じゃあ、昔はどこの厩舎にもあったニンニク味噌なんて、もう使ってないか」
市川「いまニンニク味噌を使っているのはベテランの厩務員だけ。あれは匂いが強烈すぎて馬も人間も気になりますからね。最近は蜂蜜りんご酢なんかをよく使います。りんご酸やアミノ酸を馬に摂らせたいんですが、飼い葉に酢を入れただけでは好んで食べようとはしない。そこで、甘いものを好む馬の嗜好性を利用するんです。暑さにバテかけている馬に酢を摂取させると、疲労回復や食欲増進といった効果が見込めますからね」
村上「昔はなかったもので、いまは常識みたいになってるものが他にあれば教えて」
市川「ヒアルロン酸かな。美容にいいと人間でもブームになっているように、摂取すると保湿力が高まって肌が潤いを取り戻すんです。だから皮膚の荒れた馬や毛ヅヤの悪い馬に有効なサプリメントがあります。直接肌に振りかけるスプレーもあるんですよ。新陳代謝を促進させるということでしょうね」
最近は集中力に欠ける上に疲れやすく馬券の的中率も下降一途。速やかに原稿処理ができて3連単がバリバリ当たるサプリがあれば助かるのだが、それはともかくとして、突然の問い合わせに快く応じてくれた市川クン。ご協力ありがとう。今週も馬券が当たらないようなら、暑い小倉や新潟で頑張っている競走馬を見習って蜂蜜りんご酢を使ったドレッシングをつくってみようかと考えている私である。
競馬ブック編集局員 村上和巳 ◆競馬道Onlineからのお知らせ◆ このコラムが本になりました。 「トレセン発 馬も泣くほど、イイ話」⇒東邦出版HP