・イースター ・インティライミ ・エアシェイディ ・シャドウゲイト ・ダンスインザモア ・マヤノライジン ・マルカシェンク ・メイショウオウテ
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「ごぶさたしてますが、元気にしてますか。実はですね、俺、競馬ブックのネット会員になってるんです。えっ、知らなかった?前にも話しましたよ。月々きちんとお金を払い込んでるんですよ。ええ、競馬ブックweb、そうそう値段の高い方です(笑)。実はその件で相談なんですが、データの活用法について、ちょっと判らないことがあったので、問い合わせの電話をさせてもらいました」
突然の電話だったが、相手が20年以上も交流のある同業のA君と知ってすぐに話が弾んだ。要するに、某競馬専門紙の現場取材記者をしているA君が我が競馬ブックのネット会員になってデータを活用しているというのである。業界をリードする我が社ならではのエピソードとあって思わず宣伝に引用させてもらったが、彼は取材力に定評のある記者で、馬券が大好きなのはもちろん遊びも大好き。出張先で穴馬券でも的中させようものならその日は一晩中ネオン街を走り回る。そのあたりも含めて私には波長の合う競馬記者のひとりだった。
「最近の○○調教師の様子ですか。村上さんが現場にいたとき以上に気難しくなって手を焼いてます。その日の気分によって態度が一変。機嫌のいいときは普通に喋ってくれますが、ひとたび機嫌を損ねるともう大変。こちらが質問しても“判らん”“知らん”の繰り返し。まったく取材が成立せず困ってます。△△調教助手は元気ですよ。彼が“見違えるほど良うなった。今度はエエかも”ってアドバイスしてくれた馬は相変わらずいい競馬をしてます。歳はとっても馬の能力や状態を見抜く目は卓越したものがありますね」
A君と私は会社も違えば年齢も違う(私の方が年長)が、その昔は同じ業界の厩舎取材者として張り合っていた。我々に共通していたのは限りなく競馬が好きだというのが第一で、取材して特ダネを掴むことを生き甲斐にしていたというのが第二。だから二人とも囲み取材(各社の人間が一緒に取材対象を取り囲んで話を聞く共同取材)が大嫌い。癖があって気難しく、めったに取材陣に気を許さない相手からいかにして本音を聞き出すかに全力投球していた。他人の知らないネタを仕入れることこそが特ダネへの道なのだから。
同じ厩舎の同じ馬を取材していても、それぞれの新聞紙面上では印が違うことも当然あった。彼が本命を打って私が無印。ゴール前で「よっしゃ、そのまま」と相手が歓喜の声を上げている記者席の片隅で肩を落としていた私。逆に「ちぎれ!ぶっちぎれ!」と私が狂喜する横で彼が俯いていることもあった。もちろん、ふたり揃ってボロ負けして慰め合ったことが圧倒的に多かったのは言うまでもない。同じ対象馬を取材していても、取材する時間帯や取材相手によって感触が違うことはよくある。競走馬は生き物で日々変化する。また、厩舎関係者も人間なのだから性格の違いもあれば取捨についての判断も微妙に食い違う。だから現場取材は難しいのだ。
そんなふうにやり合ってきた我々だが、一度として相手に嘘をついたことがない。おそらく彼も同様だったろう。どちらも取材した馬について相手に尋ねられれば最低限のことは答えるが、本音は伝えない。そして、お互いに必要以上に細かくは相手に聞かない。どちらも自分の取材に自信を持ち、それぞれのプライドを持って現場を走り回っていたのだから。相手を出し抜いたときは心中で快哉を叫び、やられたときはなにが原因で相手に負けたか密かに反省する。現場時代はこんなことの繰り返しだった。他社の記者のなかにはまず自分で取材せずにポン、チー(他人が取材したネタをもらう)ばかりで済ませるいい加減な人間もいたが、そんな人種は相手にしなかった。三角おにぎりを逆さにしてメガネをかけたような風貌(いささか怪しげな雰囲気だが、実は優しいヤツ)の彼と年中ヘラヘラしていてつかみどころのない私。ちっぽけながらもそれぞれ誇りを持って仕事をしていた。
久しぶりに我が編集局に登場したA君とあれこれ昔話をしていると現場記者だった頃にタイムスリップして時間の経過を忘れる。「最近、馬券の成績はどうや」と尋ねると「さっぱりですワ」と元気のない言葉が返ってきたが、まだ老け込むような歳でもない。君の競馬に対する情熱に“競馬ブックweb”のパーフェクトデータが加わればもう怖いものなし。これからはバリバリ馬券を当てて、くたびれかけている私にいい刺戟を与えてくれ。それともうひとつ、好きな○○○遊びはほどほどにした方がいいと思うぞ、A君。
競馬ブック編集局員 村上和巳 ◆競馬道Onlineからのお知らせ◆ このコラムが本になりました。 「トレセン発 馬も泣くほど、イイ話」⇒東邦出版HP