・アサクサデンエン ・オレハマッテルゼ ・キンシャサノキセキ ・コスモシンドラー ・シンボリグラン ・タマモホットプレイ ・チアフルスマイル ・ビーナスライン ・プリサイスマシーン ・マイネルスケルツィ
A 「この最終レース、難しいですね。どれを本命にしても当たる気がしませんよ」 B 「もうこれ以上時間をかけられないし、時間をかけても無駄な気がするね」 いくら時間があっても決して足りることのない金曜日の夕方。私のデスクのそばで繰り広げられる予想者同士の会話を耳にしてついつい口をはさんでしまった無責任にして軽薄な私。 私 「最終レースは大事。勢いでつけたりせず納得づくで印をつけないと後悔するぞ」 A・B 「いままでにそんな体験があったんですか?」 私がおしゃべり好きなのは周知の事実で、一旦しゃべりだすと口が勝手に動いて止まらなくなる。相手がそんな人間なのは十分知っているはずなのに無警戒な質問をしてしまったAとB。多忙な時間帯だというのに、その後の彼らがオッサンの長い昔話に付き合わされたのはいうまでもない。どんなときでも油断は禁物である。 私 「私の予想が新聞に載るようになって間もない頃、ちょうど君らぐらいの歳だったある日(ここで遠い目になるともう話は止まらない)。11レースが終わった段階で私の予想がすべて的中していた。パーフェクトができるかもと緊張しながら阪神競馬場のパドックへ行ったら、隣で馬を見ているファンのラジオから毎日放送の競馬中継が流れてきた。司会のアナウンサーの“若手の村上記者がここまで全レース的中。夢のパーフェクトまであとひとレースです。ご本人に放送席にきていただくつもりですが、記者席にもどこにも姿が見当たりません。村上さ〜ん、この放送を聴いていたらすぐ放送席にきてください”という声が耳に飛び込んできた。正直、あのときは焦ったよ」 A・B 「で、最終レースの結果はどうだったんですか?」 私 「放送席には行かず、そして記者席にも戻らず、一般席でレースを見た。自分の予想が外れだろうってのは想像できたからね。その最終レースは本命と対抗でガチガチ、誰が考えても一点でいいと考える堅いレースだった。なのに、へそ曲がりの私は他人と同じ予想では面白くないからととんでもない馬に本命をつけた。結果は大方の予想通り人気馬同士の決着。ウチの予想スタッフは私以外の全員が的中、つまり私ひとりだけが外れる不細工な結果になった。あのときは反省した。周囲の人間にはもったいないと責められ、ファンの方からは信じられないアホな予想者と呆れられた。誰でも当てられるレースを無理にひねって外しちまったんだから。一日を締めくくる最終レースだけはきちんと予想しなくちゃいかん。そう考えるようになったのはあのチョンボがあってからだな」 A・B「…………(呆れ顔になって無言のまま仕事に戻る)」 この話は後日談がある。この日、偶然に毎日放送ラジオを聴いていた競馬をまったく知らないつれあい(当時はまだ結婚していなかった)は「村上さ〜ん、みんな貴方を探しています。この放送を聴いていたらすぐに放送席にきてください」というアナウンサーの声に驚愕。“また放送の出番をすっぽかしたか、それとも、番組中にチョンボをして呼び出されているに違いない”と直感。私への不信感を更に更に募らせたのだった。あれから20年以上もの歳月が流れたというのに、いまもその不信感が払拭された様子はない。
競馬ブック編集局員 村上和巳 ◆競馬道Onlineからのお知らせ◆ このコラムが本になりました。 「トレセン発 馬も泣くほど、イイ話」⇒東邦出版HP