・コスモバルク ・ディープインパクト ・ドリームパスポート ・ハーツクライ ・メイショウサムソン
・アロンダイト ・シーキングザダイヤ ・タイムパラドックス ・ハードクリスタル ・フサイチリシャール ・メイショウバトラー
「パトロールフィルムを何度か繰り返し見ました。結論としては降着やむなしです。本田騎手は左から(外から)数発ステッキを入れて内側に斜行して四位騎手の進路をまともにカット。そのため、四位騎手は手綱を引っ張ってブレーキをかけ、その結果、バランスを崩して落馬寸前となりました。本田騎手はその後も更に内へ行っています。せめて一旦内に入った段階でステッキを右手に持ち替えてモタれるのを矯正すべきでしたが、勝負どころからカワカミプリンセスの反応が悪かったことに加え、ステッキを入れると予想以上に馬がフラついたために立て直す余裕がなかったのでしょう。当人にすれば痛恨の場面だったと思われます。京都競馬場ではJRAがテレビで放映した以外のパトロールフィルム(角度の違うもの)をマスコミに公開して説明会を行ったそうです。その説明会に参加した記者も、“あれでは降着にせざるを得ない”と話していました。JRAにとっては断腸の思いでの降着でしょうが、公正競馬を守るためには当然の裁定だったと思われます。ただ、馬と騎手の動きについて言葉で正確にファンに伝えるのは非常に難解。それだけに、競馬場でマスコミに公開したパトロールフィルムを一般にも公開して、ファンに対してよりわかりやすい説明をすべきではなかったか。そんな風に考えています。なんといっても、G1レースの1番人気馬の1着降着なのですから」
まずはエリザベス女王杯が終わった直後に1件のメールが届き、月、火、水にも数十件のメールが競馬ブックinformationに届いた。その内容は“降着に対する抗議”や“裁決の判断に一貫性がない”という批判が多かった。それぞれに目を通した上できちんとした質問に対しては、あくまで個人的な意見と前置きしつつ上記のような返事を書いた。G1レースでの1着馬の降着は1991年の天皇賞(秋)以来であり、ある程度予想していたこととはいえ、その反響は大きかった。レース翌日には一部のスポーツ紙で“憮然たる様子のカワカミプリンセス陣営”という小見出しで降着としたJRAの判断を批判する内容の記事が掲載されたが、西浦勝一調教師、本田優騎手ともに降着になったことに対してはなにひとつ異議を唱えてはいない。にもかかわらずこういった根拠のない憶測記事が生まれることには首を傾げざるを得ない。そして、月曜夜のニュース番組では“降着になった本田騎手”というテロップが流れる画面に誤ってフサイチパンドラと福永騎手の姿が映し出されていた。今回の降着事件では他にも頭痛に襲われそうな報道が何種類かあり、その裏には競馬という競技がまだまだ社会に認知されていないという残念な現実があった。
レースが終わった段階でフサイチパンドラと永田繁秋厩務員は競馬場の厩舎に引き上げていた。正装していた同厩務員はまずネクタイを外して長靴にはき替え、馬の背にある鞍を外した。検査のために提出する尿採取の準備をしているときに繰り上がり1着の知らせが入ったとか。「印象に残ったのはカワカミプリンセスの強さばかり。それだけに少々複雑な気持ちで優勝の記念撮影に臨んだ」というのは本音だろう。一方、カワカミプリンセスの深川享史調教助手はゲートに立ち会っていたためにレースの詳細を見ることができなかった。1着でゴールインしたにもかかわらず審議終了後はウィナーズサークルに向かうことが許されない愛馬。彼は他のスタッフがその鞍とゼッケンを外す姿を悄然と眺めていたという。
いろんな人間たちのいろんな思いが錯綜した今年のエリザベス女王杯だったが、結果を振り返ってみると2着のスイープトウショウ、3着のディアデラノビア以外は6着までを3歳馬が占めた。これに降着となったカワカミプリンセスを加えたこの世代のレベルの高さ、層の厚さは過去に記憶がないほど。繰り上がりの1着となったフサイチパンドラはジャパンCに向かい、カワカミプリンセスは当初の予定通り放牧に出された。来年以降も続けられるこの世代の牝馬の戦いがハイレベルなものになるのは間違いなさそうだが、二度と今回のような残念で後味の悪い事件が起きないように祈っておきたい。
競馬ブック編集局員 村上和巳 ◆競馬道Onlineからのお知らせ◆ このコラムが本になりました。 「トレセン発 馬も泣くほど、イイ話」⇒東邦出版HP