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10月17日、火曜日。4時50分に起きてトレセンに出かけた。私用で突然出かけることになったため、なにひとつ準備せぬまま慌ててベッドに潜り込んだのが前夜の0時半。数時間後に目覚ましがジリジリ音を立てても一瞬はなにがなにやらさっぱり判らない。真っ暗ななかでベルを止めてやっとのことで起き上がり、寝惚けた頭であれこれ考えてなんとか思い出した。急きょトレセンに行くことになったのだったと。 トレセンは月曜日が休日となっていて、この日は馬を馬房から外に出さない。人も馬も完全休養する通称“全休日”となるのである。丸1日休んだ翌日、つまり全休明けにいきなり激しい運動を行わないのは当然で、火曜日の朝に追い切りをかけることはまずない。だから火曜日のトレセンは取材記者の数が少ない。5時半すぎにトレセン3階の調教スタンドに上がったときは記者の姿もまばら。久しぶりにノンビリと調教風景を眺められた。 火曜日は放馬が多いという声をよく聞くが、この日も馬場が開場して1時間ほどの間に2度の放馬があった。放馬というのはなんらかの理由で人間の手から離れた馬が1頭で駆け回ること。レース前の返し馬で騎手が振り落とされて空馬が馬場をグルグル駆け回るのをご覧になったことがあると思うが、調教の最中の放馬もちょうどあんな状態である。火曜日の朝に放馬するケースが多いのは前日の月曜日が全休のため。つまり、丸1日を馬房で過ごした馬たちは、久しぶりに外へ出されるためにはしゃいだりイレ込んだりする。普段とは馬自身の精神状態そのものが違うため、乗り手にはより用心深い騎乗が求められる。 幸いなことに、この朝に放馬した2頭は馬場監視員と厩舎スタッフの頑張りでそう時間がかからずに身柄を拘束。ことなきを得たが、過去に私が目撃した放馬シーンでもっとも時間がかかったのは十数年前の朝の調教時のもの。鞍ずれで落馬した調教助手の左の鐙が外れず、その人物は左足だけが鐙に引っ掛かったまま逆さ吊り状態で馬にひきづられて馬場を十数周。なんとか馬が止まったときに彼は完全に気を失っていた。後日になってその調教助手が打撲と擦過傷だけで済んだと聞いたときには奇跡だと思った。 ハロータイムにお握りと味噌汁の朝食を済ませ、食後の珈琲を飲んでいる私の目の前に松永幹夫調教師が出現。挨拶を交わしつつ軽く会話を交わした。春に騎手を引退して現在は師匠の山本正司調教師の下で技術調教師として日々を過ごしている彼だが、誠実さが漂う独特の立ち居振る舞いは現役時代となにひとつ変わらない。「ちょっとおなかが出てきちゃって困っています」と当人は苦笑いしていたが、その体形に変化は感じられなかった。この幹夫ちゃん、じゃなかった(笑)、松永先生の近況をもっと知りたいファンの方には競馬道OnLineの彼のコラムに目を通すことをお勧めしておく。 調教を2時間ほど観察したあとは例によって厩舎回り。橋口弘次郎厩舎でハーツクライを見せてもらい、次は山内研二厩舎で談笑。最後は松田博資厩舎に顔を出してこの日の予定を終了した。去り際に菊花賞に出走するドリームパスポートを見せてもらい、その気配の良さには痺れてしまった。担当の小園隼人調教厩務員を「エエなあ。なんとかG1勝てよ。硬くなってメシ食えんのちゃうか」と冷やかしたところ、「なにいってるんですか、村上さん。僕、編集員通信読んでるんですからね。手抜きしないでちゃんとした原稿書かないとダメですよ」と逆襲されてすっかり意気消沈してしまった。嫌な時代になったもんである(冷や汗)。
競馬ブック編集局員 村上和巳 ◆競馬道Onlineからのお知らせ◆ このコラムが本になりました。 「トレセン発 馬も泣くほど、イイ話」⇒東邦出版HP