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村上 「もしも〜し、いま忙しい時間帯かな?」 相手 「はいはい……、え〜と、誰に電話してるんでしょうかね」 村上 「誰って、潤(じゅん)に電話してるに決まってるだろ。あれ、どこかで聞いたことのある声だな」 相手 「いま、目の前に10人分の携帯が並んでて、どれが誰のなのか判らないんです」 村上 「その頼りない声は薫彦(くにひこ)だな。なんで潤の電話に君が出てくるんだよ」 相手 「その口うるさそうな声は村上さんですね。なんですか、せっかく電話に出てるのにブツブツと」
10月10日火曜日、午後3時すぎの出来事である。私用で高田潤騎手に電話を入れたところ、さんざんコール音が続いた挙句、電話に出てきたのはなぜか渡辺薫彦騎手。それで上記のようなチグハグで間の抜けた会話になってしまったのである。そして、噛み合わない会話はその後も続いた。
村上 「なんでもいいんだけど、潤はいまそこにいるのか、それともいないのか」 渡辺 「いるのはいるんですけど、電話に出るのは無理なんですよ」 村上 「なんで無理なんだ。君らはそこでいったいなにをしてるんだ」 渡辺 「知らずに電話してきたんですか。野球ですよ、野球。高田はいま、守備についています」 村上 「ということは、君はベンチウォーマーか。困ったもんだ。そんなことよりも場所はどこ?」 渡辺 「えっ?まさかグランドへくるんじゃないでしょうね。口うるさいオヤジがきたらみんな嫌がりますよ」 村上 「嫌がられたって行くに決まってるだろ、行くに。どこのグランドでやってる?」 渡辺 「駿風寮のそば。近くまでくればすぐに判りますよ」 村上 「シュンプウリョウ?聞いたことあるな、それどこだったっけ」 渡辺 「厩務員の独身寮じゃないですか。そんなことも知らないようじゃ現場記者失格ですね」 村上 「もうとっくに失格になってるワ。それよりも場所だよ、場所」 渡辺 「村上さんって、すぐに道に迷う激しい方向音痴でしたよね。よく聞いてください、いいですか……」
すぐに家を出て一路トレセン方向へ車を飛ばす。薫彦の予想通り途中で道が判らなくなって一度電話を入れる情けない場面はあったが、そこからはなんとか目的地に到着できた。グランドでは騎手同士が2チームに分かれて軟式野球をしている真っ最中。どんな規模のどんな競技でも、ライヴの輪の中に入るのは楽しい。
熊沢君と佐藤哲ちゃんに軽く挨拶して、それからはベンチ横でゲーム観戦。想像以上にユニフォームがピタリと似合う人間もいれば、やっぱり勝負服の方がいいかなと思う人間もいる。しかし、プレーの随所に敏捷さや反射神経の鋭さが見られるのは現役ジョッキー同士のゲームならばこそ。内田浩一、橋本美純、幸英明、古川吉洋、白浜雄造、池添謙一、竹之下智昭、高田潤といった各騎手がグランド狭しと駆け回り、松田大作、小林徹弥両投手の投げ合いも迫力十分。しかし、ここまでに名前を挙げた騎手が12人。他にもユニフォーム姿の若者が10人ほどいて、それぞれが溌剌とプレーを続けているのだが、誰が誰なのかさっぱり判らない。
「えっ?若手の乗り役の顔と名前が一致しないって。そら、しゃあないっすよ、もう現場にいないんやから。それに、いくら村上さんが若いつもりでいても、オッサンはオッサン。いい加減に年齢を自覚して落ち着かんとダメ。若い連中も“怪しげなオッサンがきたな”って認識しかないと思いますよ。渡辺先輩なんか村上さんがくるって知ったら“急に用事を思い出した”とかいって、さっさと帰ってしまいましたからね」
私が現場取材記者から内勤に変わってもうすぐ丸5年が経過しようとしている。高田騎手の言葉通り年齢相応の落ち着きを身につけたいと思うのだが、幾つになってもどんな状況下でも、ただひたすらヘラヘラしているこの本質は変わりそうにない。それにしても、ただ私を避けるだけのためにG1レベルの猛スピードで逃げ切った渡辺騎手には呆れるしかなかった。今度会ったときにはいつもの倍以上に口うるさく攻め立てるから覚悟しておけよ、薫彦。
競馬ブック編集局員 村上和巳 ◆競馬道Onlineからのお知らせ◆ このコラムが本になりました。 「トレセン発 馬も泣くほど、イイ話」⇒東邦出版HP