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ディープインパクトが出走したフランス凱旋門賞。NHK総合テレビ・凱旋門賞中継の平均視聴率は関東地区で16.4%、関西地区で19.7%だったことがビデオリサーチの調査で判った。深夜のテレビ番組、しかも競馬中継としては破格とも思える高視聴率で、瞬間最高視聴率は関東が22.6%、関西が28.5%だったという。結果については改めて取り上げる必要もないだろうが、この1週間は競馬ファンからの投書、メールが殺到。ひととおり目を通すだけで疲れ果ててしまった私である。
ファンの声の大半はディープインパクトが3着に敗れたことに対する不満であり、その原因を究明しようとするものだった。同様の動きはインターネット上でも展開されており、一部の掲示板では過熱した集団ヒステリー状態の批判がいまもなお続いている。その内容は「休み明けで59.5キロを背負うレースに出走させたのは選択ミス」「岡部やオリビエ・ペリエが指摘していたように、早仕掛けが敗因」といった感情論が多く、裏返せば競馬ファンの期待がそれだけ大きかったということでもある。その背景には“世界制覇まであと○日”だったり“世界一へのカウントダウン”といった楽観的な見出しばかりが躍るマスコミの報道姿勢にも問題があったのではないか。
私自身は比較的ノンビリと凱旋門賞のテレビ中継を観ていた。出走頭数が8頭でしかも馬場硬度が3.0と知ったときには“これだけ条件がそろえばアッサリ勝っても不思議ないな”とも思った。しかし、同時に“意外なほど呆気なく負けてしまうかもしれない”という予感もあった。負ける可能性ありと考えたのはディープインパクトに内在する“激しさ”であり“危うさ”だった。史上6頭目の三冠馬となり、古馬となってからも春の天皇賞と宝塚記念を制したディープインパクトだが、レースにおける強さの裏には不安定な精神面が見え隠れしていたから。
競走馬というよりは人造サラブレッドのようだったシンボリルドルフ。そのレース運びはまるでコンピューターを搭載したマシーンのような完璧なものだった。個人的な好みでいうとあまり感情移入できない種類の馬だった。そして、末脚の破壊力が桁違いだった全盛期のナリタブライアン。そのレースぶりはまさに最強の称号にふさわしいもので、菊花賞のゴール前では“もう判った、追うな。追わなくてもお前は最強だ”と心の中で呟いていた。リアルタイムでレースを観戦したこの2頭の三冠馬が誇示したのは圧倒的な能力の高さと強靭な精神力だった。この2頭と比べると、ディープインパクトの強さはまるで異質だった。終わってみればいつも激しさに任せて他馬を捻じ伏せていても、ゴールへ入るまでの彼は常に危うさを漂わせていた。
いつも後方に位置して勝負どころからは大外をぶん回り、最後は力任せに他馬を屈服させる。あまりにロスの多いレースぶりを見るにつけてあれこれ考えた。もちろん、武豊が好んでそんなレースをする訳もない。好位差しの正攻法で勝てるなら騎手にとってそれほど楽なことはないのだから。強引なレース運びの裏には馬格に乏しいがゆえに馬込みで揉まれ込むと弾き飛ばされそうな不安や、一旦カッとなると抑えが利かなくなる気性の激しさとの戦いが続いている。そんな現状を考えるとディープはまだまだ未完成なのかもしれないが、狂気を孕んだ激しさがあるからこそ常識破りの強さを発揮できるタイプでもある。凱旋門賞でベストパフォーマンスを演じられなかったのはそんな激しさが空回りしたから。結果は残念だったが、日本代表としてポテンシャルの高さは示せたと思う。
これまでの日本馬の海外遠征はあくまで“世界に対する挑戦”であり、極論すると結果は二の次だった。しかし、今回の凱旋門賞を見終えて思ったのは、もう“挑戦の時代”は終わったということ。これからの海外遠征はいかにして結果を出すかが最大のテーマになってくることだろう。最後に、週刊競馬ブック10月9日発売号では秋華賞特集とともに、凱旋門賞観戦記(秋山響)、凱旋門賞狂想曲(石川ワタル)を掲載している。凱旋門賞についてもう一度考えてみたいと思われる方にはどちらも必見の記事であり、後者の“日本のワンダーホースは、日本の枠を越えて、世界のワンダーホースとなることを、世界中で期待されていた”というくだりはなかなか興味深い。
競馬ブック編集局員 村上和巳 ◆競馬道Onlineからのお知らせ◆ このコラムが本になりました。 「トレセン発 馬も泣くほど、イイ話」⇒東邦出版HP