『My Own Ways』という一枚のCDを聴いた。福田純太郎という小倉在住の人物が60歳にして初めて出したCDなのだが、これがなんとも素敵で格好いい。バックはジャズ編成だが曲の構成はジャズ、スタンダード、R&B。酒を飲みつつ繰り返して聴いているうちにそのヴォーカリストと出逢った頃のことを思い出した。スポーツの感動的な場面や熱中できる小説との出会いも素晴らしいが、いい音楽を聴いたときの感激もまた何物にも替えがたい。
『マイガール』『ドックオブザベイ』『ジョージアオンマイマインド』『ホールドオン』『青い影』『煙が目にしみる』『モナリザ』……どれもが大好きなナンバーで、酒を飲みつつその歌声に聞き惚れた。選曲、歌唱力ともにパーフェクトに私好みだったのである。それからは週の大半をその店で過ごした。客のなかには外国人も少なくなかった。嬉しがりの私はマスターのヴォーカルはどうだと何度も彼らに尋ねた。答はいつも決まって「Wonderful, Like a Negro」だった。ご存知の通り“Negro”は黒人に対する蔑称なのだが、黒人音楽ファンにとってみれば「Like a Negro」は最高の誉め言葉のように聞こえた。彼の率いるバンドが1960年代後半に米軍キャンプツアーで熱狂的な支持を集めたという噂は偽りではなかったのだった。翌年からは小倉出張が楽しみになった私。そして、マスターも少しは競馬に関心を示してくれるようになっていた。