・アマノトレンディー ・ステラマドレード ・ソングオブウインド ・タマモサポート ・ニシノアンサー ・ベルジュール
・シーイズトウショウ ・シンボリグラン ・ダイワパッション ・プリサイスマシーン ・ブルーショットガン
“ゲートはスッと出たな、いいぞ。おっと、もう2番手か。ちょっと早いな。おい、おい、こんなとこで頭を上げて行きたがってどうする。落ち着け、ムキになるな、力を抜け。そう、そう、なんとか折り合ったな。よお〜し、その位置で流れに乗れ。行きすぎても控えすぎてもダメ。ゆっくり、ゆっくりだぞ。よし、よし、よお〜し、そのまま、そのままでいい。誰だ外からウロウロ上がってくるヤツは。え〜い、無礼者、下がれ、下がらんかい、邪魔者め。まだ早い、早い。つられて動くな。ここで行くと甘くなるぞ。辛抱せ、辛抱、直線向くまでは辛抱だ。そう、そう、それでいい。もうちょっと、もうちょっと我慢、我慢しろ。よし、いいぞ、残りあと2ハロン。さあ一気のスパートだ。行け、離せ、ぶっちぎれネオナート。単勝80倍だぞ、80倍。判ってるな、嗚呼(ゴール前)”
4回京都3日目10レースの亀岡特別は500万クラスのダート1400メートル戦。私が予想を担当している携帯サイト・競馬ブックオンラインの『推理のキー』では人気薄のネオナート号を本命にした。16頭立ての10番人気で単勝オッズが80倍という超人気薄の馬だったが、狙うだけの根拠はそれなりにあった。その詳細についてはここでは触れないが、久しぶりに興奮してレースを見守った。スタートからゴールまでの間(1分24秒1)、ずっと上記のように心中で狙い馬を叱咤激励。熱中、興奮、錯乱、混乱、狂乱。レースは2頭並んでゴールインとなったが、テレビの画面を通してネオナート号が勝っただろうことはなんとか確認できた。 「ネ、ネ、ネオナートが押し切ったよな、か、か、勝ってるよな」
いい歳をして完璧に舞い上がっている私の取り乱した問いかけに呆れながらも「ええ、大丈夫でしょう」「ギリギリ残ってますよ」と優しく答えてくれた周囲のスタッフ。前からそうだとは思っていたが、みんな本当にいいやつである。なにがあっても君らのことは忘れん、生涯忘れんからな。そんなことを考える間もなく、すぐに掲示板に馬番が点滅。燦然と輝く1着12番には胸が熱くなった。苦節三十年、勝負弱い恵まれないオッサンが快哉を叫ぶ日がついにやってきたのである。まさに至福のとき、競馬をやっていてよかったと思った瞬間だった。しかし、配当金が発表されるとはしゃぐ気持ちはぶっ飛んでしまった。
単勝12番8090円、複勝12番1620円……、馬連76190円、馬単154280円。
「おめでとうございます、馬単ですか馬連ですか」「馬連なら500円で38万円、馬単なら200円でも30万です」と周囲から声がかかる。「い、いや、単複をちょっとだけ」と答えてすっかり意気消沈してしまった私。この日の朝イチにオッズを確認したときは『推理のキー』の予想通り馬番6点を数百円ずつ購入する予定だったが、それまでのレースで完敗。予算が激減したため、馬券を購入できる最少単位の金額で単複を買っただけ(54歳にしてこのレベル―なんと情けないことか)なのを思い出したのだ。このレース一本に絞っていればと悔やんでももう遅い。遅すぎるのだ。こんなミスをいままでに何万回と繰り返してきたことか。この日の夜は友人Dからの電話でとどめを刺された。
「京都の10レース、予想的中おめでとう。でも、どうせ馬券は獲ってないんだろ。歳をとったからって馬券のセンスが変わるもんでもないしな。そういえば、年間プラスをめざすってネットの原稿で書いてたけど、今日みたいな大穴を一発当ててプラスに持ち込むってのは意味ないぞ。今日の10レースを買わなかったファンはもう取り返す機会がない。それじゃ、誰にも信頼されん。無茶苦茶に振り回すんじゃなくて固いところは固く、荒れるところは荒れるような予想。それがお前の持論じゃなかったか。最近は大振りばかりが目立ってる」
長い付き合いで互いに相手の長所短所を知り尽くしているとはいえ、Dの言葉はボディーブローのようにジワジワときいてきた。『推理のキー』の収支は現時点(6月24日終了時点)で77000円ほどのプラス。単純計算なら今後の予想がずっと外れ続けても10月末あたりまではプラスになる。しかし、今回の亀岡特別の貯金だけで年間プラスを計上しても単なる一発屋オヤジでしかない。よ〜し、こうなったら今年の年間目標をプラス76200円に設定して当てまくってやろう。これなら今回の高配当を度外視してもプラス計上(たったの10円だが)だから文句はないだろう。年末にはこちらから電話するから、楽しみに待ってろよ、D!
競馬ブック編集局員 村上和巳 ◆競馬道Onlineからのお知らせ◆ このコラムが本になりました。 「トレセン発 馬も泣くほど、イイ話」⇒東邦出版HP