・ネイティヴハート ・ブルーショットガン ・リミットレスビッド ・プリサイスマシーン ・オレハマッテルゼ ・マルカキセキ ・タマモホットプレイ ・ラインクラフト ・マイネルアルビオン ・コパノフウジン ・シンボリグラン
「こちらは090―○○○○―○○○○です。メッセージがいっぱいで伝言をお預かりできません」
世の中にこんな人種がいるのかと驚いた。知人の携帯電話から流れてきた留守番電話サービスの音声がこれ。普段からなかなか居所がつかめず、なおかつめったに連絡が取れないと聞いていたHに電話したときの話だ。留守電に預かりきれないほどのメッセージがたまっているだけでも驚きであり、そんなHの日常がどんなものか想像すると気が遠くなった。なぜなら、そんな人物と仕事の打ち合わせをしなくてはいけなかったからだ。幸いなことに競馬を通して知り合った共通の知人が間に入ることで無事に連絡は取れた。4月に一度会うつもりなので、リベラルに生きている彼の様子を探りつつ競馬について語ってみたい。
「携帯電話は必要なので使っていますが、メールは一切しません。その理由ですか?自分の書いた文字や文章がそのまま相手のもとに残るのが嫌なんです」
これは私よりもふた回りほど年下のFの言葉。法律関連の仕事に携わる人間で、文章に関するこだわりは想像を絶するものがある。外見は限りなくCool&Hardなのだが、その本質は限りなくWet&Nervous。競馬を通して知り合って10年以上が経過しており、最近は年に2、3回しか会えないが、顔を合わせれば時間の空白を一瞬で埋めて馴れ合える。暮れに会ってからは電話の声さえも聞いていないが元気にしているのだろうか。時間ができたらギネスでも飲みながらじっくり会話をしてみたい。
「最近になってお前の編集員通信を読むようになった。文章になってなかった昔に比べたら、いくらかは読める程度のものを書けるようになったみたいだな。まだまだレベルは低いが、長くひとつの仕事に取り組んでキャリアを積めば、人間、最低限のつぶしはきくようになるってことだな」
これは友人Kの言葉。表現そのものはストレートで厳しいが、高校時代からの友人である彼の言葉はいつも素直に受け入れられる。人材派遣会社の社長をしている彼はその分野での手腕に定評があるだけでなく万人に愛される天真爛漫なキャラクターの持ち主。なんとも軽薄そうな外見とその裏に秘めた知性。そんなアンバランスさがなんとも魅力なのだ。馬券のうまさは私の友人たちのなかでも群を抜く存在。もちろん、感性も豊かである。カラーグラフの見出しを考えたりするときには『こんな場合、Kだったらどう書くのだろうか』なんてことをいまでもふと考えたりする。
「ウチの亭主?まだ帰ってないの。『最近は原稿を書く機会もないし、普段は机に坐って回ってきた書類に判を押すだけ。あんな生活なんてつまらん』ってボヤいてばかり。そもそも管理職なんて向いてないのよ。だからストレス発散の目的で飲み歩いてんじゃない、今夜も」
これは旧友Nの奥方の電話の声。都内の出版社に勤務する彼は、純真無垢で世間知らずだった私に競馬を教え込んだ極悪非道の人間。私よりもひとつ年上だが、喋って書いて遊んでと、なにをさせても一流。いまでも夜の街では現役バリバリのようだ。滋賀の田舎で家に引きこもりがちな私からすると想像を絶するパワーの持ち主であり、その行動力にはいつも圧倒されている。
上記4人に共通するのは単に競馬好きであるというだけでなく、それぞれが個性的で素晴らしい文章を書くということ。私にはとても真似ができないほどそのレベルは高い。たまにはそんな彼らとグラスを傾けて競馬談義でもしつつ刺激を受けたい。3週間後にはもう桜花賞。業務処理を流れ作業で済ませないために、少しは気持ちを高揚させることも必要なのである。
競馬ブック編集局員 村上和巳 ◆競馬道Onlineからのお知らせ◆ このコラムが本になりました。 「トレセン発 馬も泣くほど、イイ話」⇒東邦出版HP