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12月22日、木曜日。午前8時に出社。いつもより早めに着いたのは朝から降り出した雪の様子が気になったから。我が編集局は大半の人間がトレセンへ出向いていて社内には私を含めて2、3人の姿があるだけ。午前7時すぎに降りはじめた雪は時間の経過とともに更にきつくなり、吹き荒れる寒風と合体して横殴りの状態になっている。北海道生まれの私は視界が真っ白になると少々浮かれ気味になるのだが、追い日の雪は歓迎できない。降雪は競馬サークルにとって天敵なのだから。
雪が降ると気温が下がる。それだけでもトレーニングには適さない。馬の筋肉が硬くなっていつもほどスムーズな調教ができなくなるし、路面が硬くなると必然的に脚元には負担がかかる。だからといって凍結防止剤を馬場にまくと、今度はそれが原因(擦過傷を起こした馬の傷口から不凍液が入るケース)でフレグモーネを起こしたりすることも少なくない。もし、コースに雪が積もるとこれがまた大変。蹄鉄の底に雪が詰まることを『下駄を履く』というが、下駄の歯の間に雪が詰まると人間でもバランスが悪くなるが、馬の場合はもっと深刻。自分で蹄鉄の底にたまった雪を取ることができないのだから、滑ったり捻挫したりして脚を痛めてしまう危険がある。サラブレッドの大半は北海道生まれで基本的には寒さに耐えられるものの、馬場の凍結や降雪には極めて弱い。競走馬には日々環境を整えてやることが必要なのだ。
この日はトレセンに行っていた調教班が9時前には会社へ戻ってきた。冬場のトレセンの馬場は7時から11時(火〜金)まで開いているのが常だが、馬場に馬が出てこなくなったので帰ってきたというのである。なぜ馬たちが馬場入りしないかというと、まずは積雪で馬場入りする前のウォーミングアップができない。そして馬場入りしても路面が硬すぎる。更にハロン棒が見えないほど視界が悪い。そんな状態では危険で調教ができない。加えて8時半すぎには停電にもなった。坂路ではバーコードを利用した自動計時装置を取り入れているが、停電になった途端に各馬の調教時計を表記するモニターが使えなくなってしまう。当然ながら坂路にもたっぷりと雪が降り積もった。こうなると敢えて調教をする意味がなくなるのだ。
この停電では信号機がその機能を果たせなくなって道路は渋滞。坂道をのぼれずにスピンしたままの車や雪に埋もれて放置される車が続出。栗東近辺は悲惨な状況になった。弊社のある人物が「チェーンさえ巻けば雪道なんて怖くない」と張り切ったまではよかったが、前輪駆動車だというのに後輪にチェーンを巻いて出かけたために途中で身動きが取れなくなったなんて間抜けな話もあった。そして電車通勤のベテラン社員が通勤途中で転倒して頭部を打撲。意識不明となって救急車で病院へ搬送されるという事件もあった。どちらも大事には至らなかったが、身近にいる人間とすればとても笑えない出来事だった。
金曜日には新たな問題が起こった。雪が名神高速道路を襲撃したのである。通行止め区域もあれば大渋滞もあるという想像を絶する大混乱。通常は7時間半ほどで済む栗東トレセンから中山競馬場への輸送が大幅遅延となり、なかには20時間近くもかかってやっと中山にたどり着いた馬運車もあったと聞く。もちろん、美浦から阪神競馬場へ輸送するケースも同様。24日の阪神競馬では輸送熱を出して取り消す馬が少なくなかったが、その多くはやはり関東馬だった。そんな悪条件の下でベテルギウスSを勝ったヒシアトラスという逞しい関東馬もいたが、大半の馬たちには長く厳しい一日だったことだろう。
やれ雪だ停電だのトラブルに巻き込まれて仕事の処理が大幅に遅れてしまった私。24日の夜10時すぎに帰宅してなんとか空腹を満たし、やっとこの原稿を書きはじめた。ふと気がつくともう日付が変わろうとしている。日曜日の中山競馬に出走する馬たちは雪の影響もほとんど受けず無事に中山にたどり着けたようだ。いよいよ明日は一年をしめくくる有馬記念。今年一年の疲れが吹き飛ぶような素晴らしいレースを見たい。
競馬ブック編集局員 村上和巳 ◆競馬道Onlineからのお知らせ◆ このコラムが本になりました。 「トレセン発 馬も泣くほど、イイ話」⇒東邦出版HP