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編集員通信
競馬ブック編集員が気になる事柄にコメント
馬の知能






 

◆“馬の知能”

  「馬好きは、馬ほど頭の良い動物はいないという。もちろん、そんなことはない。……中略……脳の大きさを比べてみると、人の脳は体重の約2%。これに対して馬の脳は約600グラム、体重のおよそ0.1%である。身近な動物で脳の体重比が馬より大きいのはサル、ネコ、イヌなど。逆に小さい動物としてはウシとブタが挙げられる。知能から馬を格付けすれば、大体その辺の位置に落ち着くような気もする」

  上記の文章はJRA発行の『新・競馬百科』の“馬の知能”から抜粋したものである。な、なんと、我が愛しのサラブレッドの知能がウシ、ブタよりは上だが、サル、ネコ、イヌよりは劣ると明記してあるではないか。一瞬、そんなことがあるはずはないと怒り狂ったが、冷静に考えた結果、まあそんなものかもしれないと納得した。

  その昔、Aという馬がいた。普段から大人しくて従順。好きな馬の一頭だった。馬場で調教を終えるといつも乗り手が下馬して手綱を放し、馬自身が思うがままに行動できるようにした。調教コースから地下道を通り抜けて自分の厩舎に帰るまでの間、調教助手はAの2メートルほど後ろをついて歩くだけだったが、Aはなんのためらいもなく自分の馬房に向かって歩いた。数百メートルほど直進して左折し、更に数十メートル歩いて右折。曲がるたびに振り向いて調教助手の姿を確認して、あとはひたすら目的地へ。厩舎に到着すると洗い場の前に立ち止まって担当厩務員の姿を探し、シャワーで汗を流し終えると自らの意思でさっさと馬房へ戻って行く。そんなAの姿を見て“なんて賢い馬なのか”と私は感激した。

  その昔、Bという馬がいた。普段から落ち着きがなくて狂暴。好きになれない一頭だった。調教の最中に乗り手を振り落として暴走することも珍しくはなかった。空馬になったBは馬場から地下道を蛇行して周囲を驚かせながら通り抜け、自分の厩舎とはまったく別の方向に疾走して半狂乱。厩舎スタッフがつかまえようと奔走しても延々と逃げ回った。“なんてアホな馬だ”と私は呆れ果てた。

  馬とはいっても人間と同じで、聡明なヤツもいればアホなヤツもいる。当然ながら人それぞれであり、馬それぞれなのである。上記のAは現役競走馬として丸3年を過ごしたが、41戦3勝の数字を残しただけ。これといって目立った成績もないままに引退して乗馬クラブへ流れて行った。一方のBはというと、訓練を積みつつそれなりに競走能力が開花。オープンまで出世したが、あるレースで暴走。最初のコーナーを回りきれずに外ラチに激突。数カ所を骨折して予後不良となった。いろんな個性を持つ馬たちの潜在能力をそれなりに評価するという作業には常に困難がつきまとう。

  「馬は記憶力が非常に良い。特に強い恐怖や痛みをともなった経験は、一度だけでもいつまでも忘れないという特徴をもっている」(『新・競馬百科』より)
 
負けても負けても一攫千金を狙って万馬券ばかり買い続けている私。懲りることを知らないこの怠惰な人生を振り返ると、記憶力、学習能力と、あらゆるジャンルにおいて自分自身が競走馬よりも劣っていることが判明。恥ずかしくなってしまう。


競馬ブック編集局員 村上和巳


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