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毎週、水曜日になると写真班のひとりが私のところにやってくる。翌週の週報で写真が必要となる馬をピックアップするための打ち合わせにくるのだが、その数は少ないときで6〜7頭、多いときには20頭ほどにもなる。G1シリーズともなると週報のフォトパドック用、厩舎レポ用だけでなく、増刊の追い切り写真まで必要となってきて、その数は急増する。にもかかわらず、いつもきちんと全馬の写真をそろえてくれる写真班には頭が下がる。
「高校の頃に競馬に嵌まりました。トレセンに行きだした頃は無我夢中。厩舎へ行って○○を撮らせてくださいって言ったら“これが○○や”って厩務員さんが教えてくれたので、それを撮りました。翌日、デスクに写真を見せたところ、“○○は栗毛やのに、なんで鹿毛やねん”。冗談を真に受けてたんです(笑)。最初の頃はいろいろありましたが、最近はスムーズに仕事ができています」
これは通称ロクちゃんこと長島緑朗クン(31歳)の話。活気にあふれるカメラマンのひとりだ。被写体が静止物なら撮影はもっと楽なのだろうが、競走馬が相手だとなかなか思いどおりにことが運ばない。調教終了後に撮影の約束をしても、急に馬場入りの時間が変わったり、馬自身のテンションが上がりすぎてポーズが取れなくなったり。そんなことは日常茶飯事だ。それに加えて、写真撮影を好まない厩舎人もいる。撮影中に馬が暴れて取り返しのつかないアクシデントが生じる可能性だってあるのだから、そんな関係者に無理な注文を出せないのは当然のこと。競走馬を追いかけるカメラマンには想像以上の苦労が伴う。
「調教が済んで一旦馬房に入ってしまった馬は、まず外へ出してもらえません。約束していても時間が遅れるとダメな場合が多いですね。朝一番の坂路追い切りも苦労します。周りが暗くてもフラッシュをたけませんからね。また、レース写真の撮影も緊張しますね。とにかくワンチャンスですから、ミスは絶対に許されません」
童顔にいつも笑顔を絶やさないロクちゃんは、その人柄もあって社内の人気者。トレセンでの評判もいい。また「この馬、すごくいい体になってます」「なんか元気がないんですよね、あの馬」といった彼の台詞が、その後のレースの結果を見事に予言していて驚かされたこともある。ファインダー越しに馬を見守り続けるプロの眼は、我々の想像以上に厳しくて、なおかつ正確なのだ。
そんな長島緑朗クンが11月23日に挙式すると聞いた。おめでとうロクちゃん。結婚生活は競馬と同様に夫婦がスムーズに折り合ってこそ。暇さえあれば相手の存在を無視して勝手に引っ掛かって暴走している私みたいにならないことが肝要だが、まあ、優しい彼のことだからそんな心配は不要だろう。
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競馬ブック編集局員 村上和巳
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