コーナーTOP
CONTENTS
PHOTOパドック
ニュースぷらざ

1週間分の競馬ニュースをピックアップ

編集員通信
競馬ブック編集員が気になる事柄にコメント
救護体制・その後






 

◆“救護体制・その後”

  私が週刊ケイバブックの『一筆啓上』とこの編集員通信でJRAの各競馬場における救護体制の問題点を指摘してから4カ月が過ぎた。その後、幾度となくトレセンに出向き、何度か競馬場にも顔を出した。そのたびに顔見知りのJRA職員はきちんと対応してくれた。救護体制の問題点について個人的には胸を痛めていると力説する人物も少なくなかった。なかには「不況が続いているため、現行の救護体制を維持するのに必要な経費まで削減の対象になっていました。でも、その計画は見送りになりそうです」と裏話をしてくれる人物もいた。「俺たちのためにいろいろ書いてくれてありがとう。人間としての誇りを守るために、俺たち騎手会も頑張るよ」と張り切っている騎手も何人かいた。

 しかし、その後の競馬場の救護体制はなにひとつ変わっていないようだ。事情に精通している騎手たちに問い合わせても「残念ながら変化はありません」という返事ばかり。それどころか「競馬場の救急車には、専門医どころか、救急救命士の姿すらありません」「競馬場によっては、救護所に医者の姿が見当たらないときもあります」といった驚くべき証言が返ってくる始末。更に「以前に落馬して大怪我をしたA騎手(刺激が強すぎてとても実名で書けない)の場合は救急病院の手続きをきちんと取っていなかったため、瀕死の重傷だったにもかかわらず、何軒もの病院をたらい回しにされた」とか「JRAの救急車は見かけだけ。

 専門の人間が同乗していないため、サイレンも鳴らせない。渋滞に巻き込まれても、ただ道路事情に任せるだけなのが実情」といった新たな情報まで飛び込んできて、言葉を失くしてしまった。列記した証言や情報すべての裏を取ったわけではないが、その内容は信憑性が高いと思えるものばかり。著名タレントのCMに数億円を投入できるなら、その経費の数パーセントだけでも救護体制の改善費用に回せないものか。そうすることで、少なくとも必要最低限の医者数は確保できると思うのだが……。

 「たかが選手」と発言してひんしゅくを買ったプロ野球のオーナーがいた。「たかが選手」は「たかがファン」と同義語でもあると考える。その発言を咎めることすらせず、1リーグ制に向けて走り続けるNPB(日本プロ野球機構)。経営者側のそんな傲慢な姿勢が選手会のストライキを生んだ。9月18日のある新聞社の世論調査では、ストライキ支持が全体の85パーセントを超えていたというが、それも当然だろう。ファンあってのプロ野球であり、素晴らしい選手がいるからこそファンが野球に魅せられるのである。

 競馬場の救護体制が変わらない背景には、JRAにも「たかが騎手」「たかがサラブレッド」という意識があるのではないか。ファンあっての競馬であり、素晴らしい馬や騎手がいるからこそファンが競馬に魅せられるのだ。主催者側がそんな意識を持ち続ける限り、球界のトラブルは対岸の火事ではない。


競馬ブック編集局員 村上和巳


copyright (C) Interchannel,Ltd./ケイバブック1997-2004