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『英語でしゃべらナイト』というNHKのテレビ番組をご存知だろうか。週刊ケイバブックの発売日でもある月曜日の夜11時15分にスタートする30分番組だが、最近は欠かさずに見るようになった。週替わりでゲストが登場して、その人物と英語との出会いから英語観にいたるまで、レギュラー陣とのトークが繰り広げられるのだ。見ているとこれがなかなか楽しい。な〜んて書くと英語はペラペラみたいだが、そんなわけもない。
この仕事に就く前に大阪で音楽喫茶をしていた話は以前に何度か書いたが、当時の常連客に外国人留学生が何人かいた。気取り屋さんのイギリス人M、素朴なユーゴスラビア人A、そして、やんちゃなアメリカ人C。それぞれに「これからの時代は英語を喋れないとダメ」と諭されたが、私の英語はどこまでもが単語の羅列で発音もまるでカタカナ風。センス皆無と全員に見放された。しかし、聞き慣れた好きなラブソングの歌詞(愛を告白する台詞)だけは限りなく流暢に喋れた。このギャップは信じられないほど彼らに受けた。
トレセンを走り回るようになってからも英語力はまるで上達しなかった。それでも、外国人を見つけると図々しく話しかけてしまうお調子モンの性格。取材の合間にオリビエ・ペリエと食い物談義をして、ミルコ・デムーロとはセリエAについて語り合った。思いの半分も相手に伝わっていなかっただろうに、翌日から顔を合わせるたびに、ふたりそろって「オハヨウ」と声をかけてくれるようになった。英語や彼らの母国語での挨拶ではないのには少々傷ついたが、まあ、私の言語レベルを考慮した結果として日本語を選択したもの。残念ながら納得するしかなかった。
10月27日放送分の『英語でしゃべらナイト』にはビートルズの全曲を日本語に訳詞した女性が登場して、当時の苦労を語っていた。名曲『Let it be』を「あるがままに……」とするか、それとも「なるがままに……」と訳すかで随分悩んだというくだりでは、その女性に一体化して感情移入していた。あの頃、私も友人とそんな議論をした記憶があったから。いまから30年以上も前のことになる。
定年を迎えたら欧米のひなびた競馬場を順番にのんびり回りたいというのが最近の私の夢だが、単語の羅列とカタカナ発音ばかりの語学力では、そんな都合のいい夢なんて実現しそうにない。
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競馬ブック編集局員 村上和巳
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