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編集員通信
競馬ブック編集員が気になる事柄にコメント
調教師像






 

◆“調教師像”

 調教師の定年制が導入されたのは何年前だったか正確には覚えていないが、最近になって栗東トレセンの調教スタンド2階にある調教師席の雰囲気が、着実に若返りつつある。それだけの理由でもないのだろうが、最近の調教師は理論的で人あたりのいいタイプが多くなっており、取材にも協力的だ。それでも、現場取材に際しては相応の苦労があるのはいまも昔もそう変わらないと思うが、私が取材担当として厩舎を回りはじめた二十数年前のトレセンは想像を絶する世界だった。

 「うまいこと言ってワシの腹さぐろうったって、そうはいかん。新聞屋に読まれるような商売はしとらん」と一切本音を吐かなかったN元調教師。私が「調教の動きがグンと良くなっていますね」と水を向けても、「そらアンタの勘違い。節穴の目で判ったようなこと言うたらアカン」と一蹴された。やむなく、調教助手や厩務員といったスタッフに取材して裏をとったり、調教に跨った騎手たちに感触をたしかめたりと走り回ったものだった。

 「なんぼ言うても知らんもんは知らん。ワシには聞かんと直接ウマに聞いてこい」はK元調教師。この人も頑固一徹で言葉少な。取材中に途方に暮れ、馬房内の馬に向かって「今度は走るんか?」と真剣に尋ねたことも一度や二度ではなかった。もちろん、返事があるわけもなし。嘘のような情けない話だが、実話なのである。

 悪戦苦闘しつつも諦めずに毎日厩舎に通うと、そこは人間同士のこと。少しずつ心が通じ合ってくる。「懲りんヤツやな」と根負けして本音を話してくれるようになったNさん。「間抜け面して上体ばかり見んと、足元を見なアカン。馬は歩様が大事や」とアドバイスしてくれるようになったKさん。それぞれがもう引退してしまった人たちだが、いま思い出すと懐かしい。

 ある時期から同世代の調教師が出現し、いまや調教師の何割かは年下になってしまった。だから、最近は冗談を言い合ったりストレートに気持ちをぶつけられる相手も増えてきた。なかには喋りが流暢で見るからに頭が切れるという印象を受ける人物も少なくない。それはそれで魅力的なのだが、私の好きな調教師像は若い頃に手を焼いたような頑固親父タイプ。不器用で一徹だが、こと馬に関しては限りない愛情を注ぐ。そんな調教師に魅かれる。若い頃の経験がトラウマになっているのかと苦笑いしつつも、そんな人物が管理する厩舎から有力馬が出現するとついつい肩入れしてしまう。

 競馬記者として、そして雑誌の編集者の端くれとして、そろそろ私も年齢相応の風格を身につけたいと思うのだが、書く文章がこのレベルなら、考える前に口が勝手に動いてしまう軽い性格。悲しいことだが、多くは望まぬようにしている。


競馬ブック編集局員 村上和巳


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