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編集員通信
競馬ブック編集員が気になる事柄にコメント
現役引退






 

◆現役引退

 日吉正和騎手が7月20日付けで引退した。藤田伸二、四位洋文、安田康彦、河北通、宝来城多郎といった活気ある世代の同期生で、明るさと前向きな性格でアピールしてきた人物だ。「競馬学校時代は腕白で、当時は大人しかった四位がよく泣かされていた」なんてエピソードを同期の誰かに聞いたことがある。

 「膝の状態が悪くて……。満足な状態でレースに乗れないとしたら、いつまでも騎手の座にしがみついているのもどうかと思って。それで決断しました」というのが受話器越しの説明だった。まだ今年で31歳になったばかりだが、膝の持病と戦った期間は決して短いものではなかったようだ。モチベーションの塊みたいな若者だった彼が引退を決めた背景を考えると胸が痛んだ。

 常に一線で活躍したビッグネーム・河内洋引退の影に隠れて目立たなかったが、他にも岸滋彦、内山正博、岡冨俊一、原田聖二、菅谷正巳といった面々が今年になって現役を退いた。「落馬して脊椎を痛めてしまった。調教だけなら問題ないけど、肉体も神経も極限まで消耗するのが実戦。もう一度落馬して脊椎をやると保証できないと医者に通告され、やむなく」は現役時代にガッツマンと呼ばれたウッチー(内山正博)の話。年齢差を越えて私とタメ口を交わし合ったシゲ(岸滋彦)も怪我に泣いた人間の一人だった。

 Atheleteとは本来『屈強な人』という意味だが、プロスポーツの選手に五体満足な人間がほとんどいないというのも事実。体をふたつに折りたたんだ不自然で窮屈な姿勢のまま競走馬に跨る騎手たちの大半が腰や膝に持病を抱えている。サラブレッドが進化を続け、レースがスピードアップすればするほど、生身でその背に跨る騎手たちに対する負担が増してくるのは自明の理でもある。

 「2、3年のんびりして、それから先のことを考えます」と話していた日吉正和。猛勉強して難関の調教師試験にチャレンジするもよし、日々を馬育てに没頭するもよし。どちらにしても、引退した元騎手たちの人生が、現役時代と同様に溌剌としたものであって欲しいと心からそう願う。


競馬ブック編集局員 村上和巳


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