編集員通信


“トレセン内での傘使用は禁物”

 トレーニングセンター内での取材活動にはいろいろ制約がある。特に大変なのが雨の日。まず傘はダメ。それが近付いて来たり、左右に揺れていると、馬は敏感に反応し、時には暴れ出すこともある。本質的には臆病だから厩務員の制止も耳に入らず、いきなり駆け出したりする。手綱を放してしまおうものなら一大事だ。

 馬を怖がらせないために、記者は傘をよして雨合羽を着用している。これが又面倒で、建物の中にある調教師、騎手のスタンドへの出入りは、当然靴についた泥を落とし、雫のしたたる合羽を脱いで室内へ。厩舎に向かう時は再び合羽を羽織って雨中へ駆け出して行く。それを1日何度となく繰り返す。

 取材対象の相手が一個所にいるわけでないだけに、自分から動かなくては仕事にならない。

 調教師でさえも決して例外ではなく、馬の運動している場所の近くでの傘の使用は厳しく慎んでいる。音にも注意を払わなければならない。車が低速(20キロ以下)で横を通過するぐらいなら殆ど気にしないが、ひと昔前、ディーゼル車を使用していた頃、アイドリングの音でさえ高過ぎると厩務員殿にひどく叱られた記者がいる。それが原因で、取材拒否を受けるとこまで険悪な状態になり、早々にガソリン車と入れ替えたということもあった。ドアの開閉音が大きいと怒鳴りつけられている光景もよく目にしたものだ。

 トレセン内の至るところ「馬優先」の看板が立っている。トレセン内ではまず馬ありき、しかる後に人あり。今ではすっかりその理念が浸透してきて、音や傘によるトラブルはあまり聞かなくなった。

編集局長 坂本日出男

目次へ戻る

(C) 1999 NEC Interchannel,Ltd./ケイバブック