“今どきの若いモンは”
小社の前庭にクローバが小規模に群生している。所用があって立ち寄った某調教師が、目敏くそれを見つけ、懐かしそうにシゲシゲと見入っていた。 師がまだ赤帽(見習い騎手)の頃、飼料として刈り込みに行かされたことを思い出したそうだ。今にも弾けそうになるまで叺(かます)一杯詰め込んだクローバは、体が小さ過ぎて自転車の荷台に乗せるのも容易でないし、運転となるとフラフラして危なくてしようがない。仕方なく、何キロもの道を押して帰って来た。 “それがしょっちゅうだもん”と笑う。途中休憩で立ち寄った店先で食べたカキ氷の美味しかったこと等、次から次へと昔話が尽きない。 厩舎作業は勿論のこと、師匠、先輩の靴磨きから使い走り。叱られ、時には叩かれながら仕込まれた世代は、一様に我慢強い。“ついつい今の若い子は…”と現代っ子へ話が向けられる。 先輩も後輩もないのはレースに乗っていてのことで、普段の社会生活においては、長幼の序というものが依然として存在する。そうしたことも心得ない世の中になってきているのだろうかと嘆かれる。調教師が騎手を選ぶ第1の条件は腕の善し悪しだが、次いで、例え古いと言われようと礼節をわきまえていることを優先して依頼する。 その話を聞いて、当たり前や、と思うのは自分も古い人間の同類項の証明かも……。
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