編集員通信


新しき酒は新しき革袋に


 2月一杯で定年退職した小林稔、吉永猛、高橋直、荻野、上田、柳田厩舎の管理馬を分散して引き継ぐ形で、関西では3月1日付けで新規8厩舎がスタートを切った。新規調教師は定期馬房10と、抽選馬房2が基本的には与えられる。最高は木原厩舎の18頭で、池添、大根田之、佐藤正、中竹、服部、藤沢則厩舎が10頭前後、唯一、田原厩舎は僅か3頭が移籍したに過ぎなかった。

 断っておくが、これは田原師が差別された結果ではない。本人の希望であったのかも知れない。田原師はジョッキー時代からすべての面において革新的であった。騎乗法にしても、名人、天才と呼ばれる福永洋一さんや、武豊が、馬を主体とし、馬に合わせたやり方だったのに対し、田原師は馬の方を自分に合わせる方法で一時代を築き上げた。私生活においても因襲的な組織や制度に縛られないで、積極的に枠外へ飛び出して行った。

 かつて「さらばハイセイコー」をヒットさせた増沢騎手(現調教師)他、歌の上手な人は何人もいたが、バンドを結成してライブ活動を継続したのみならず、マンガの原作を週刊誌に連載、単行本として刊行するなど、競馬界で前例のない多芸多才振りを発揮している。それが一過性のものでないところに素晴らしさがある。

 3頭からの出発も当然計算されたものであり、開業後は日を置かず、どれもこれも涎の出そうな超の字のつく良血4歳馬が続々と入厩してきた。それ等は即座にとは言えないが、2カ月もすれば立派な戦力として前線へ送り出されてくるだろう。馬具はカイバ桶から馬衣、手綱等々、すべてピッカピカの新品で揃え、旧厩舎から譲り受ける因習もここにはない。厩務員、調教助手らスタッフは若手で固めており、文字通りゼロからの出発。“新しき酒は、新しき革袋に盛れ”(マタイ伝)調教師としても、後世に名を残すであろう大物がいよいよ始動する。

編集局長 坂本日出男

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