〈ところで皆さん〉。先日、知り合いがこんなグチをこぼしているのを聴きました。“持ち時計がええからこうた（買った）のに、そこらにもけえへん（来ない）。何でやねん”。皆さんも、きっとこんなご経験がおありだと思います。知り合いが馬券検討のひとつのよりどころとした「持ち時計」、確かに、重要なファクターには違いありません。

ところが、この「持ち時計」なるもの、信用すべし、信用するべからずの、２面性を持ち合わせているんです。現在の芝2000ｍのＪＲＡレコードは前述したゼネラリストの１分57秒５です。立派な時計です。が、ちょっと聞いてください。ゼネラリストがレコードを記録したこのレース（平成９年４月19日京都競馬第11Ｒ）、驚くなかれ17頭立ての４着までが１分57秒台、５着から15着までが58秒台。ブービーの馬が１分59秒０。足元を気にして一杯に追えなかった最下位の馬の時計が２分00秒０でした。それまでのＪＲＡレコードが不滅ではといわれたサッカーボーイの１分57秒８。その時計を２着馬が0.1秒破り、３、４着馬は0.1秒遅いだけ。正にビックリです。

追い討ちをかけるようですが、もうひとつ。翌４月20日の京都競馬、今度はエイシンバーリンが日本で初めて1200ｍ１分07秒を切りました。１分06秒９。これも現在の芝1200ｍのＪＲＡレコードです。両馬のレコードにケチをつけるつもりは毛頭ありません。ただ、この開催の京都競馬場は、これ以上ないコースコンディションで、いつもに比べ、極端に時計の出やすい馬場だったということは否定できないでしょう。ゼネラリストのレースで15着だったエイシンコンカードの芝2000ｍの、エイシンバーリンの10着だったキッスパシオンの芝1200ｍの現在の「持ち時計」はその時のものです。こういった特殊な馬場状態の下で記録した「持ち時計」は、トシとってから、娘時代の写真を引っ張り出して、“ああ、私にもこんなにキレイな時代があったんだなあ”と感慨にふけるのと似て非なるものがあります。思い出しても仕方のない「持ち時計」もあるんです。私の知り合いのような「持ち時計信奉者」の方は、一度考え直してみてください。

ただ、すべてがそうだとは言っていません。例えば、サイレンススズカのような馬は別です。速い時計は2000ｍの１分57秒８だけではありません。東京と中京の1800ｍで１分46秒３と46秒５（コースレコード）。馬場状態に関係なく、自分の競馬ができれば常に速いタイムをマークできるスピードを持っている馬の「持ち時計」は“信じる”べきです。この辺の見極めは難しいところですが、（１）その馬の「持ち時計」が何着の時のものか、（２）最高タイムをマークした時と同じ日の他のレースが極端に時計の速いレースになっていないかどうか。せめてこの２つぐらいは調べたうえで、買おうとする馬の「持ち時計」を重視するかどうかを決めてください。これは私自身のテスト。レコードを出した日の馬場状態、着順から、安田記念出走馬で１分33秒台の「持ち時計」を持つ馬のうち、“信じる”はタイキシャトル、オースミタイクーン、シーキングザパール。“信じるべからず”はケイワンバイキング、スギノハヤカゼ、ビコーペガサス、ベルウイナー、ロイヤルスズカ。結果をお楽しみに。外れたらゴメンナサイ。

（競馬ブック関西デスク・井戸本征彦）

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